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住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」)に対しては、各方面から様々に問題点が指摘されていますが、これらを整理すると、概ね次のようになります。
(1)住基ネットに携わる公務員等による個人情報の漏洩や不正利用の可能性がある
(2)ハッカーなどによって住基ネットへの不正侵入が行われ、個人情報の流失や改ざんが起きる危険性がある
(3)住基ネットにかかる構築費や運用経費に対して、国民に提供されるサービスがあまりにも貧弱であり、コスト的に見合わない
(4)住民基本台帳法(以下「住基法」)の国会審議に際し、政府は稼動前に個人情報保護に「万全の措置を講じる」と約束し、同法の附則には「所要の措置を講ずる」との文言が入れられたが、個人情報保護法を未制定のままに住基ネットをスタートさせたことは、これらに反している
(5)国民総背番号制として国家による国民の監視・管理につながる可能性がある
これらの問題点の内、最後の住基ネットが国民総背番号制であるとの指摘が妥当なのか否かについて、2002年12月6日の衆院本会議において与党3党などの賛成多数で成立した「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「オンライン一括法」)」を中心に検討を行うことにします。
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まず最初に、国民総背番号制の要件を簡単に定義してみましょう。第1に、政府によって、全国民に重複することのない番号が漏れなく付けられていること。第2には、番号は一元的に管理され、番号だけで個人を確実に特定できること。第3には、番号は行政機関等によって多目的に利用されること。そして、第4には、番号をキーにして国民の個人情報を集約、いわゆる名寄せができることです。
不参加を表明した東京都杉並区や同中野区、同国分寺市、福島県矢祭町、市民による選択制を取っている横浜市の住民を除けば、ほぼ全ての国民に、住基ネットの稼動に伴って住民票コードとよばれる11桁の番号が、重複することなく付けられました。これで要件1はクリアです。
住基ネットは、市町村と都道府県、そして総務大臣が指定した情報処理機関であり、総務省の外郭団体である財団法人・地方自治情報センター(以下「全国センター」)に、それぞれ置かれたサーバーとよばれるコンピュータと、これらを相互に結ぶ電気通信回線で成り立っています。市町村のサーバーには市町村民全員の、都道府県のサーバーには都道府県民全員の、そして全国センターのサーバーには国民全員の本人確認情報(氏名、生年月日、性別、住所、住民票コード及びそれらの変更情報)が記録保存されています。
国や自治体は必要に応じて、これらのサーバーに記録保存されている国民・住民の最新で正確な本人確認情報を利用することができます。また、住民票コードは重複していませんから、住民票コードで検索すれば1億2千万人の中から個人を確実に特定することができます。もっとも、住民票コードは、本人の申請によりいつでも変更が可能であり、国民総背番号制とはいえないと主張する向きもあります。しかしながら、住民票コードの変更履歴は、全て全国センターなどのサーバーに記録されており、変更後の番号から変更前の番号を調べることも、その逆も可能です。履歴を把握し記録する政府に対しては、番号変更しても残念ながら意味がありません。したがって、住基ネットは、要件の2もクリアすることになります。
住基ネット構築の根拠となっている住基法の改正案が国会で審議された1999年当時も含めて、これまで政府は、住基ネットから本人確認情報の提供を受ける行政機関や利用事務については、住基法で具体的に限定されていると説明してきました。もし、その通りなら要件の3を満たすとは言えませんから、国民総背番号制ではないということになります。本当にそうでしょうか。
政府は、2005年までに世界最先端のIT国家となることを目指す国家戦略である「e-Japan戦略」の具体化の一環として、国や自治体へのほとんどすべての行政手続きがインターネットでできるようにするための「電子政府(オンライン)関連三法案」を先の国会に提出しました。この三法案の内の一つが、オンライン一括法案でした。
住基ネットの利用事務は、住基法で93事務と決められていました。しかし、オンライン一括法には、利用事務を拡大する住基法の改正が含まれています。この法改正により、利用事務に、旅券の発給や自動車登録、不動産登記、厚生年金や国民年金の支給、NPO法人の設立認証、公営住宅の入居資格確認などの171事務が新たに加えられ、これまでの3倍近い264事務に一挙に膨れ上がりました。
同法が国会に提案されたのは、住基ネット稼動前の2002年6月7日でした。国民総背番号制だとの批判をかわすために、利用は限定しているとこれまで盛んに宣伝していた政府が、もう道はついたと判断したためか、施行直前に利用範囲を広げる法案を出してきたのです。将来のなし崩し的な拡大につながるのではないかと懸念が広がったのは当然であり、個人情報保護法案などとともに先の国会では継続審議となりました。
しかし、今国会では、大きくクローズアップされた拉致事件の影に隠れるかのように、マスコミにもほとんど取り上げられることもないまま衆参両院合わせ18時間の短時間の委員会審査だけで成立してしまいました。
住基ネットの利用は法で限定されていると政府にいくら説明されても、これでは限定されていないことと同じです。住基ネットは、国民総背番号制の要件の3もクリアしているといって良いでしょう。
では、要件の4である住民票コードをキーにした国民の個人情報の名寄せは可能なのでしょうか。名寄せを行なうためには、国民の個人情報を記録した様々なデータベースに、住民票コードが共通の番号として記録されていなければなりません。
国や自治体は、国民・住民の個人情報を記録した様々なデータベースを持っています。2001年3月26日付の『日経コンピュータ』は、その数を2000年10月1日現在、政府だけで1661種とし、自治体としては東京都と足立区を例にあげ、それぞれ約2300種と約580種であるとしています。また、同誌によれば、例えば外務省の所有するデータベースの一つである旅券管理マスタには、主なものとして、氏名、生年月日、性別、身長、本籍、旅券番号、発行年月日、効力(有効期限など)、失効等理由、期間満了日が記録されているといいます。使われている番号は、住民票コードではなく旅券事務固有の旅券番号です。
他の多くのデータベースでも、それぞれ固有の番号が使われています。運転免許証には免許証番号、年金には基礎年金番号、健康保険なら被保険者番号などのようにです。今のところ、住民票コードも含め共通の番号は、こうしたデータベースに記録されていません。
したがって、特定の国民の個人情報を名寄せする場合は、名前や生年月日などをキーにして検索することになります。同姓同名で生年月日も同じ国民が複数人いないとは限りません。正確に名寄せをするためには、他の条件も含めて調べなければならず、たいへんな手間と時間がかかります。
しかし、これから先はどうでしょう。オンライン一括法が施行されれば、旅券の新規申請の際に、住民票の写しを提出する必要はなくなります。同法の施行に向け検討されている「一般旅券発給申請書(案)」には、「住民票コードがわかる場合は、その11桁の番号」との説明書きのある記入欄がもうけられています。住民票の写しを提出する代わりに申請用紙に自分の11桁の番号を記入することになるようです。旅券発給の職員は、住基ネットの端末を使って、記入された住民票コードから申請者の本人確認を行ない、無記入の場合は氏名や生年月日、住所などで申請者を検索し、本人確認を行うのです。
では、本人確認が終わった後、記入された、もしくは検索で見つけた住民票コードは、もう必要ないとして抹消されるのでしょうか。おそらく、旅券発給のデータベースに入力されることになるでしょう。なぜなら、住民票コードを入れておけば、旅券の発給を受けた者が海外などで事故や事件に巻き込まれたときに、最新かつ正確な国内の住所地を住基ネットの端末から速やかに入手できるからです。オンライン一括法案では、住基ネットが利用できるのは「旅券の発給事務」となっていますが、この程度の利用であれば、発給事務に含まれるものと解釈され、まず違法な目的外利用とはされないでしょう。
また、オンライン一括法によって、年金給付に関する事務にも住基ネットが利用されるようになりますが、年金に関する届出書類の中にも、既に11桁の番号記入欄がもうけられているといいます。
オンライン一括法が施行された暁には、国民・住民は、国や自治体の役所の窓口で、264の事務に係る申請書類に自分の住民票コードを記入するのが当たり前になるでしょう。そして、申請書類に記された住民票コードを264の事務に係る個人情報を記録したデータベースに入力することが、国家・地方を問わず公務員の仕事となるでしょう。利用事務は限定されているといいながら、実際には、国民への説明もなく、まともな国会審議もせずに、安易な拡大を図る政府ですから、今後も対象をさらに広げていくことでしょう。利用対象が広がれば広がるほど、住民票コードを共通の番号として記録したデータベースが増えることになります。こうして住基ネットは、いよいよ国民総背番号制のシステムとして本領を発揮することになるでしょう。
個人情報を記録したデータベースに、住民票コードが付加されるであろうと容易に推察できることが、実はもう一つあります。オンライン一括法が施行されれば、住基ネットを使うことにより、年金受給者が毎年提出する現況届、すなわち生存を確認する届けのかなりの部分は必要なくなると政府は説明しています。厚生労働省が一括して、全国センターのサーバーに、個々の年金受給者について検索をかけ、死んでいないかどうか調べれば済むからです。
しかしながら、数千万人にのぼる年金受給者の数から考えれば、厚生労働省の職員が受給者一人一人を検索し画面で確認することは不可能です。コンピュータを使って自動的に全国センターの本人確認情報と照合することになるでしょう。そのためには、年金給付に関するデータベースに、住民票コードを入れるのは、まず間違いありません。
名寄せを容易に行なうためには、住民票コードを共通の番号としてデータベースに記録することとともに、これらのデータベースがネットワークで結ばれている必要があります。
1997年1月から、各省庁内のネットワークを相互に接続する省庁間ネットワークである霞ヶ関WANが運用されています。これを使えば、各省庁が保有する個人情報が記録されたデータベースをネットワークで結ぶことは、それほど困難ではないでしょう。既に、各省庁に置かれた住基ネット端末と全国センターのサーバーとの接続には、この霞ヶ関WANが利用されているようです。住民票コードである11桁の数字を端末に入力するだけで様々なデータベースを同時に検索し、住民登録・戸籍・税・健康保険・医療・福祉給付・介護保険・年金・免許・旅券・犯歴などの個人情報を瞬時に一つの画面に表示することも、近い将来、不可能ではなくなるでしょう。
ところで、政府は、これまで住民票コードの民間利用は禁止されていると説明してきました。が、現実には、政府の税制調査会や経済財政諮問会議では、住民票コードの納税者番号への転用が検討されています。納税者番号は取引の場において相手方に知らせるのが原則ですから、住民票コードを納税者番号に使うのであれば、当然、民間利用は解禁されます。そうなれば、住民票コードでの個人情報の名寄せを行なうのは、行政機関に限らなくなります。また、住民票コードをキーにして民間企業が収集し記録保存した個人情報が、政府に提供されることも、当然あり得ると考えるべきでしょう。
こうして、国民の一挙手一投足が全て政府によって把握され、監視される社会、まさに、オーウェルの小説『1984年』に描かれた社会が日本に出現することになります。
私は、これまで長いあいだ歴史家が解明してこなかった、一つの疑問にとらわれていた。ドイツ人は常にユダヤ人の名簿を持っていた。ある日突然、・・・・・・名簿に載っている者は明日東方への移住のため駅に集合するように、との通達を張り出していくのだった。しかしその名簿をナチはどこで手に入れたのか。・・・・・・
答えは、IBMドイツの人口調査システムと、類似の高度な人口計数・登録技術である。[17ページ]
・・・・・・官庁のパンチカード記録熱の高まりに対処するため、内務省高官は、すべての個人情報を集中する25階建ての円形のデータ塔を建てるという奇抜な提案を検討した。この提案は却下された。建設と開館準備に何年もかかるからである。しかし、その未来的なコンセプトは帝国の計画立案者らを開眼させた。想像上の塔の25階の各階には、誕生月を表す12の部屋が円を描いて並ぶ。各部屋にはそれぞれの月の各日に1台ずつ、31台のキャビネットがある。各キャビネットには、それぞれ7000件の名前が入っている。人口調査局から登録簿とその改訂簿が送られてくる。そうして6000万人のドイツ人をすベて、住所が変わっても同じところで扱われ、相互参照することができる。データは約1500人の配達係が、ファイルを運ぶ磁気のように部屋から部屋へ走り回って集められる。[105ページ]
IBMが存在しなくてもホロコーストはやはり起こっただろう。IBMがなかったならばホロコーストは起こらなかった、などと考えるのは、大間違いもいいところである。・・・・・・自動化システムとテクノロジーが果たした決定的な役割を特定することは、理由のあることである[18ページ]
私たちの多くが、コンピュータ化時代や情報化時代に浮かれている。・・・・・・テクノロジーの足跡を顧みて検証すると、私に言わせれば、それは「理解の時代」である。ナチがどうやって名前を手に入れたのかを私たちが理解しないかぎり、さらにより多くの人々について、さらにより多くのリストが作られていくことになるだろう。[24ページ]
エドウィン・ブラック著「IBMとホロコースト」柏書房、2001年より
当サイト管理者が、上記引用文を掲載したのはIBMを批難するためではありません。テクノロジーを間違って使えば、とんでもないことになることを知っていただきたいからです。当サイト管理者は、現在のIBMが日本のコンピュータメーカーとは違いバリアフリーなどに積極的に取り組んでいることをむしろ評価しています。
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