『電子自治体』政策批判 3−(4)−a 

← 前へ  ↑ 戻る  次へ →

3.『電子自治体』政策の問題点(続き)

4) 個人情報の「国家管理」と「商品化」

a.住民基本台帳カードのICカード化と個人情報

 問題点の第四は、プライバシーが危険に晒されるだけでなく、個人の人格、生活、人生そのものがネットに取り込まれ、「国家」によって管理されるとともに、個人の手の届かないところで「効率的な金儲け」のために利用される可能性を持っている点である。

 国民全てに住民票コードを付ける住民基本台帳ネットワークが、2002年8月、改正住民基本台帳法に基づきスタートする。
 住民基本台帳の制度は、本来、市町村単位で住民の記録を正確に把握し、居住関係を公証するとともに、住民に関する記録を正確かつ統一的に行なうための制度であり、記録されている情報も含めて市町村と住民のものである。これを、国民全てに住民票コードを付け、住民基本台帳ネットワークを導入し、国の行政機関による利用など、全国単位で個人識別に用いることは、法の目的から逸脱するものである。また、国民総背番号制にも道をひらき、国家による個人情報の集中管理が行われ、国民のプライバシーが侵害される恐れや、その利用が民間企業にも広がる危険性も、十二分にある。
 これら改正住民基本台帳法の問題点については、当サイト内の住民基本台帳法の一部を改正する法律(案)に対する意見、報道記事等から関連情報へのリンクを張っているので、そちらを参照していただきたい。ここでは、特に、住民基本台帳ネットワークの一環として配付が予定されている本人確認情報を載せた住民基本台帳カードの問題点について述べることにする。

 住民基本台帳カードは、本人確認情報が記録されているカードで、住民の請求により市町村長が交付する(改正法30条の44)こととなっており、2003年8月からの交付が予定(地域IT推進のための自治省アクションプラン)されている。このカードがあれば、住民票の写しを住所地以外の自治体でも交付を受けること(改正法12条の2)や、転入転出手続の簡素化を図ること(改正法24条の2)ができるようになる。もっとも、肝心のカードに記録される情報については、氏名及び住民票コードその他政令で定める事項とされ、また、様式その他必要な事項も総務省令で定める(改正法30条の44)となっており、政省令の改正文が示されていない現時点ではその詳細は不明である。
 住民基本台帳カードは、当初より、ICカードによるものが想定されてきた。ICカードは、クレジットカードなどと同程度の大きさのプラスチック・カードで、CPUやメモリからなるICチップが内蔵されている。従来の磁気ストライプによるカードよりも、記憶容量が大きく(500文字〜8,000文字)、CPUが搭載されていることによりセキュリティも高いと言われている。
 1994年8月に、自治省行政局長の私的研究会として発足した「住民記録システムのネットワークの構築等に関する研究会」(座長:小早川光郎 東京大学教授)は、1996年3月に、住民基本台帳法の改正案の元になる「最終報告書」を提出した。最終報告書には、「(住民基本台帳)カードの偽造防止等のため、カードのデータ記憶媒体は、CPU(中央演算処理装置)により内部のデータを暗号化できること等の観点から、IC(集積回路)によることが適当である」としていた。

 しかしながら、実際には、「最終報告書」で理由付けたセキュリティの面よりも、大きな記憶容量に注目が集まっている。本人確認情報だけでなく、健康保険や、介護保険、年金、診療カルテ、図書館利用などの個人情報を載せ、さらにクレジットカードやキャッシュカードの機能をも、「利便性」を理由として、1枚のICカードに持たせようという計画が、2003年へ向けて具体的に進められている。
 自治省の「IT革命に対応した地方公共団体における情報化施策等の推進に関する指針」(2000年8月28日)は、ICカードによる住民基本台帳カードの「地域の関係者の協力を得ながら、保健、福祉、医療等の分野での積極的な活用を図ることが望ましい」としている。
 一方、経済産業省は、「ICカードの普及によるIT装備都市研究事業」を2000年度補正予算の事業(172億円)として進めている。この事業は、「IT革命を強力に推進すべく、特に公的分野において共通的に利用されることを想定しつつ、ICカードシステムを中心とした情報システムを複数の地域において広く普及しその効果等を広範に検証するもの」(研究事業[実証事業]研究員公募要綱)とされている。同省からの委託を受けた財団法人ニューメディア開発協会が、2001年中にも公募に基づいて決定した全国21の地域で、事業を開始する。IT装備都市研究事業は「総務省が2002年8月までに構築を予定しているICカードを使った住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)の実証試験としても位置づけ」(Mainichi INTERACTIVE DEGIRAL トゥデイ インターネット 2001-01-17)られている。
 各地域における具体的な事業内容については明らかにされていないが、「住民票の取得・申請や健康保険、図書館での図書貸し出しなど各種の行政サービスのほか、病院の診察券、買い物の際の電子決済などの民間サービスを利用できるアプリケーションを搭載したICカードを住民に配布。システムの運用上の課題を検証するほか、ICカードシステムの運営費用を官民でどう負担するかの仕組みについても研究する」(同)と報道されている。

 また、厚生労働省は介護保険証のICカード化の検討や、健康保険証を1世帯1枚から1人1枚の個人カード化に変更することをすでに決めており、さらには「同省は、将来的に介護保険証を健康保険証や住民基本台帳などと同じ1枚のICカードに集約することも視野に入れている」(毎日新聞2001年1月13日付け)ともいう。
 こうした厚生労働省の動きは、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」にて示された「社会保障個人会計(仮称)」にも連動している。基本方針は、保険機能強化プログラムとして

 国民一人一人にとってライフステージの各段階にわたる自分の生活と社会保障制度との関わりが分かるようにする。こうしたことを通じて、『分かりやすくて信頼される社会保障制度』を実現する。このため、ITの活用により、社会保障番号制導入とあわせ、個人レベルで社会保障の給付と負担が分かるように情報提供を行う仕組みとして「社会保障個人会計(仮称)」の構築に向けて検討を進める

としている。社会保障番号に住民票コードが使われない保障はない。むしろ、1枚のICカードに集約することを目指す政府の立場から考えれば、当然統一されると見るべきであろう。

 一方、2001年6月13日に成立した道路交通法の改正により、2004年から、偽造防止と海外での使用を理由に、運転免許証のICカード化が導入されることになった(改正法93条の2)。また、警察庁は、「(2002年度から)免許証を端末にかざすだけで交通違反の反則切符が発券できる『反則切符自動作成システム』を開発する方針を決めている。業務の効率化のほか、データの誤記入や、違反もみ消しなど不祥事防止につながる」(毎日新聞2001年6月21日付け)としており、ICカード化に合わせて実用化を目指すという。
 また、「運転免許証以外に身分を証明するものを持たない高齢者らが増えていくのに伴い、警察庁は免許更新しなかったり、免許を返納した人を対象に、身分証明書としてだけ使うことができる『ゼロ免許証』の発行を検討」(毎日新聞2000年6月4日付け)していたが、法改正により「運転経歴証明書」として制度化(改正法104条の4)された。さらに、「免許証が銀行口座開設の際の本人確認など、身分証明書として幅広く利用されていることから、過去に免許を取得していない人にもゼロ免許を拡大する構想が持ち上がっている」(同)という。当然ながら、「運転経歴証明書」、「ゼロ免許証」もICカード化されるであろう。
 なお、運転免許証の申請には住民票を添付しなければならない(道路交通法施行規則17条2項)ことから、ICカード免許証に、住民コードが収められる可能性も限りなく大きい。
 現在、運転免許取得(更新)時の写真をもとに、顔貌データが、警察においてデータベース化されつつあるという(参考 読売新聞関西発 2001.6.24)。「ゼロ免許証」の制度化、すなわち国民全てが、住民コードと結びついた免許証を持つこととになれば、政府は全国民の顔貌データを持つことになる。そうなれば、街中などにある監視カメラが捉えた顔貌から、それが誰であるのかを割り出すことも可能になり、行動の記録として、住民コードをキーとした数々の個人データとともに、政府(警察)のデータベースに集積されることになるであろう。・・・・・注 誇大妄想でもなければ、SFでもない。現実にアメリカで行なわれたとの報道(「スーパーボウルで観客全員の顔がスキャンされていた」Declan McCullagh、WIRED NEWS、2001年2月2日 2:00am PST、ワシントン発)がある。

 「e-Japan重点計画」は、ICカードについて「国民等の利便性の向上、行政コストの削減を図るため、行政機関が発行するICカードに関して、運転免許証等国際的な検討の対象となっているものを除き、複数の情報を相乗りさせることについて検討する。このため、関係府省が連携して、制度面、技術面、コスト面、利便性や安全性等の面からその可能性を検討した上で、2001年度のできる限り早い時期に基本的スペックを策定する」としている。
 2001年3月23日には、この重点計画を受ける形で、「公的分野におけるICカードの普及に関する関係府省庁連絡会議」の初会合が開かれ、「各省庁が個別にICカードを配布するのではなく、1枚のICカードで共通利用を可能にすることで合意」し、「18日に開かれた作業部会では、住基カードが有力な『共通ICカード』として例示された」(Mainichi INTERACTIVE DEGIRAL トゥデイ ネットワーク 2001-04-26)という。

 ICカード――全ての国民が所持を事実上義務付けられるのが、住民基本台帳カード1枚なのか、「ゼロ免許証」を含む運転免許証と合わせて2枚になるのか、まだ不透明ではあるが――を経由して多種多様な個人情報が集約され、これらが住民票コードをキーとしてデーターベース化され、国家によって管理され、さらに行動まで監視されるであろうという話は、ジョージ・オーウェルの「1984年」を彷彿させるかもしれない。しかしながら、ここで述べたのは『小説』ではない。2003年電子政府の実現へ向けて突き進む日本の現実である。

← 前へ  ↑ 戻る  次へ →