『電子自治体』政策批判 3−(1) 

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3.『電子自治体』政策の問題点

1) 住民どころか自治体職員すら知らない『電子自治体』構想

 本章では、これまで述べてきた政府、総務省が進めている『電子自治体』政策に対し、その問題点を指摘することにしたい。ただし、ここで論じるのは、2003年に向けて、今まさに展開されつつある施策一つ一つに対する問題点の具体的な指摘ではない。あくまでも、全体を見通した総論的なものである。個々の施策が孕む問題点については、Webサイト「電子自治体情報」の各ページを参照されたい。

 まず、問題点の第一は、『電子自治体』の構築は、住民の要求から出発したものではなく、政府が一方的に進めているものであり、その内容については住民どころか自治体関係者にもまともに知らされていない点である。計画に従えば、その実現まで2年少ししか残っていない今日においてである。
 先に指摘したように、国際競争力を付けるためにと、早急な電子政府・自治体の構築を求めているのは、経団連をはじめとした財界である。そして、これを進めているのは、国家間競争に打ち勝つためには「構造改革」の断行が必要とする自公保政権と、総務省などの官僚である。
 電子政府・自治体の構築へ向けた国民的な議論は、全くと言っていいほど、これまで行なわれて来なかった。また、2003年度にどのような電子政府・自治体が実現されるのか、そして、そのことにより、自分たちの暮らしはどうなるのか、地域はどうなるのか、国民のほとんどは知らないし、知らされてもいない。唯一、スローガン的に繰り返されている言辞は、「手続の利便性の向上」と「行政の簡素化」という抽象的かつ一面的なものである。

 さらに問題なのは、一般国民だけでなく、首長や議員、職員など自治体関係者の大多数も、政府の進める『電子自治体』政策の内容について理解していない点である。これは、国民的な議論が欠如していることだけが理由ではない。
 「2003年度に電子自治体の実現」を決めたIT戦略会議には、岐阜県知事である梶原 拓氏が加わっていた(引き続きIT戦略本部の構成員をも務める)。が、梶原知事は、IT問題も含めて、全国知事会のいかなる代表でもなく、全国の自治体の代表として、これらの構成員になっているわけでもない。
 2000年9月21日、全国知事会に「政府のIT戦略会議等に地方の意見を反映させるためには、IT に関する論議の場を本会に設置して地方の意見を取りまとめ、提言を行うべき」との趣旨で、情報通信技術(IT) 推進検討会委員会が設置された。委員長は梶原知事の部下である岐阜県知事公室長が務めている。このIT推進検討会委員会での検討を元に作成された「IT国家戦略に対する意見」が、2000年11月6日に開かれたIT戦略会議・情報通信技術(IT)戦略本部第5回合同会議に資料として提出されている。
 議事要旨によれば、彼は、この会議の席上「総理が第1回会議で全国知事会の方もしっかり頼むとおっしゃられたので、会長とお話しして急遽全国知事会の案を取りまとめた」と発言している。彼は森首相に言われたので、全国知事会に検討委員会をつくり、知事会としての意見を取りまとめただけなのである。全国の知事の代表として、IT戦略会議に参加しているとの意識は、全くないのは確実である。
 もっとも、彼をIT戦略会議の一員に選んだ側も、知事の代表として選んだわけではないだろう。おそらく彼が選ばれたのは、政府が進めようとするIT戦略を先取りした政策 ―― 例えば、ICカ−ド導入や、情報スーパーハイウェイ、スイートバレー構想の中核拠点ソフトピアジャパンの建設 ―― を岐阜県において、言わば実験場として展開して来たことによるのであろう。彼のこうした実績と元建設省官僚としての経歴(1981年 建設省大臣官房会計課長〔生活関連投資の拡充〕、1982年 同 道路局次長〔第九次道路整備五箇年計画・情報ハイウェイ・電線の地中化〕 、1984年 同 都市局長〔インテリジェント・シティ構想〕 )から見て、政府の方針に賛同し、これを補強することはあっても、異論を挟む可能性など全くないと判断したのだろう。因みに、梶原知事は、住基ネットワークの導入を正当化するためにつくられた自治省「住民基本台帳ネットワークシステム懇談会」のメンバーにも選ばれた実績がある。

 ところで、全国知事会は、単なる任意団体ではない。地方自治法第263条の3は、都道府県知事、都道府県議会議長、市長、市議会議長、町村長、町村議会議長によるそれぞれの全国的連合組織(いわゆる地方六団体)に対して、「地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し、総務大臣を経由して内閣に対し意見を申し出、又は国会に意見書を提出すること」ができると規定するとともに、「内閣は、前項の意見の申出を受けたときは、これに遅滞なく回答するよう努めるもの」とし、また「当該意見が地方公共団体に対し新たに事務又は負担を義務付けると認められる国の施策に関するものであるときは、内閣は、これに遅滞なく回答するものとする」としている。地方自治法は、地方六団体に対して、地方自治に関わる国の施策の決定に関与しうる特別の地位を与えているのである。
 この規定の趣旨に基づけば、当然、IT戦略会議にもIT戦略本部にも、地方六団体の意見が反映されるように、代表を参加させるべきであろう。しかし、実際にできたのは、IT戦略会議議長などに対して、あくまでも任意に、文書で意見を提出することだけである。
 全国市長会は、政府の募集していた「e-Japan重点計画(案)」に関するパブリックコメントに応じて、2001年3月19日に提出した意見の中で、「市町村行政に関わる施策や地域住民の生活に直接関係する施策の検討に当たっては、市町村の意見を十分聴取するとともに、全国市長会のような地方自治法に認められた地方公共団体の連合組織については、国のIT戦略においても、地方公共団体と同様適切に位置付けるよう配慮すること」としているのは、こうした不当とも言える扱いに対する彼らなりの抗議であろう。
 また、この意見書の最初の項目に、「『電子政府』、『電子自治体』等の国が推進する施策の具体的内容や、これに伴う現実面での変化、メリットを一般国民や市町村に対し、さらに分かりやすく説明し、十分な理解を得るよう努めること」を上げている。こうした要望を行なったことは、冒頭で述べたように電子政府・自治体の構築へ向けた国民的な議論が、全くと言っていいほど行なわれていない状況に対する市長会としての見識であろう。

 一方、自治省は、2000年12月25日、「自治省が地方公共団体を支援するために実施する事項について、担当部局、年度毎に予定している取組内容等」を具体的に示すとして、「地域IT推進のための自治省アクションプラン」を自治省官僚による地域IT推進本部において策定している。
 アクションプランには、検討項目として、総合行政ネットワークの整備、庁内LAN・一人一台パソコンの整備、個別手続のオンライン化の推進、地域における情報通信基盤の整備、住民基本台帳ネットワークシステムの整備、統合型地理情報システムの整備促進、歳入・歳出手続の電子化など17の項目が上げられている。こうした検討項目それぞれについて、施策目標、年度毎の取組、フォローアップ体制、施策に関する資料などが示されている。
 表向きは、ここに書かれたことは自治省が取り組むべき内容である。しかし、実際のところは、2003年度の電子自治体実現に間に合わせるために、検討項目として示された様々な施策を自治体に行なわせることを目的に、その実行期限をも明示した「指示文書」と見るべきであろう。
 アクションプランが発表される3か月前の9月19日、全国市長会は、全国町村会と共に「IT戦略の推進に関する要望意見」を取りまとめ、総理官邸、総務庁、通商産業省、郵政省、自治省に対し提出している。その中で、「IT関係については、これまで各地方公共団体が自主的に取組みを進めており、団体間で相当大きな事情の相違があることに十分留意するとともに、一般国民においてもITへの対応には大きな格差があることに配慮し、必要な措置を講ずること」と、至極当然の要望をしている。しかしながら、少なくともこの一律的かつ押しつけ的アクションプランに関しては、この要望は全く考慮されなかったようである。また、策定にあたって自治体関係者への意見の聴取が行なわれた形跡もない。
 このようにアクションプランは、自治体の意見も地域の実情も反映したものとは到底言えない代物であり、自治省官僚が机の上で作成した言わば「作文」に過ぎない。現実的には、財政的な制約などのもとで、この計画通りに、全ての自治体で事が運ぶとは到底思えない。が、しかし、「2003年度に電子自治体を実現」が国家戦略である以上、国民も自治体関係者も知らない内に作られたこの「作文」に、全国3300の自治体と住民が振り回されるのは、残念ながら避けられないであろう。

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