![]() | 第12回全国IT情報政策討論集会に向けた自治体全国調査に関する報告 |
e-Japan戦略に基づき政府が2003年実現を目指す電子自治体の中心課題の一つは、電子申請を国民・企業が自治体に対して行えるようにすることである。そのためには、各自治体がシステムなどを整備する必要があるとともに、法律的な裏づけが必要である。政府は、先の国会に、そのための電子政府三法案を提出したが、個人情報保護法案や住基ネット稼動の問題で、継続審議となってしまい、政府の予定は崩れつつある。
電子自治体構築に向け先進的な取り組みを行っている自治体へのヒヤリングでは、政府が早急に法案を通し、自治体に具体的な案なり、計画なりを示さない限り、自分たちとしては、これ以上前へ進めることができない、個人認証の必要のない施設利用申請などに留まらざるを得ないといった声も出されている。
しかしながら、全体としては、ヒヤリングをした自治体の多くは、電子申請の準備を自ら早急に行わなければならないと考えているようには感じられず、あまり積極的ではないように見受けられた。これは電子申請に対する住民からの要求もなく、近い将来盛んに行われるようになるとは、自治体職員自身が想定していないがためではないかと思われる。
また、政府が示している全ての申請をインターネットで受付けるようにするという点については、保育所の入所申請などを例にあげ、窓口でフェイス・トゥ・フェイスでやるべきものも多々あり全て行う必要はあるのかといった疑問や、市役所へのアクセス手段は複数用意されるべきものであってインターネットは選択肢の一つに過ぎない、駅前に自動交付機を設置するなど別のことも考えられるのではないかといった考えも出された。
政府は、短期間に、かつ、安上がりに電子自治体を実現するために、自治体の事務、とりわけ受付事務の標準化を進めるとともに、標準化された事務を処理するための汎用受付システムの構築をも進め、自治体に対してこれを利用するように促している。事務の標準化が進めば、当然の結果として、自治体の事務の差異は減少することになる。
こうした点に関するヒヤリングの結果は、大きく分かれた。一つは、開発費や維持費、将来の改善費などを考えれば、標準化やパッケージソフトの利用は当然の流れであり、事務の効率化に反して勝手な個性を主張し、莫大な経費のかかるカスタマイズを求めるのは間違いだとするものである。財政的な問題などから、やむ負えないとの消極的な標準化支持派も中にはあるが、自治体の個性は地域福祉や文化行政などで発揮すれば良く、他の分野は現状としてあまり差異もないのだから、標準化しても問題はなく、むしろ仕事をシステムに合わせていくべきではないかという意見や、先進的な自治体の中には、使えるシステムを逸早く自分たちで作れば、それが標準になるから大丈夫だというところもあった。
もう一つは、建前として標準化は出てくるであろうが、実際には自治体それぞれには、これまでの経過や地域の実態に基づく個性があり、そう簡単にまとめることはできないだろうというものである。また、地方分権の時代に一律的に標準化するのはそぐわないのではないかや、高いサービスで標準化されず、低いレベルで標準化されるのは困るといった意見や、市民と行政との積み上げの中でできてきた申請もあり、こうしたことを無視した標準化は困難だとの考えも示された。
汎用受付システムの具体的な実験として、総務省は、2001年度に、北海道深川市、福島県葛尾村、千葉県浦安市、神奈川県横須賀市、同藤沢市、同小田原市、岐阜県大垣市、岡山県岡山市の8自治体を舞台に電子自治体推進パイロット事業を実施した。このパイロット事業は、「地方公共団体が規模・能力等にかかわらず住民サービスを行うことが可能となるよう、参加市町村が共同で利用できるシステム(ASP方式等)を構築し、申請・届出等手続のオンライン化を実施」するもので、複数の自治体が一つのシステムを共同利用する形で実験が行われている。
参加した自治体の中には、実験の成果を積極的に受け止め、引き続き総務省の要請に沿って、自治体への届出や申請などの手続きを汎用受付システムに載せるために、精査・分類作業などを行っているところもある。が、一方、個人認証システムの伴わない実験であり、そのための電子政府三法案も通っておらず、今、やる意味はないのではないか、また、膨大な数のある申請を整理せずに実験をやるのは順序が逆ではないかといった批判的な声も出された。
政府は、汎用受付システムの開発を進めるだけでなく、より早く安く電子自治体を実現するために、システム全体の開発・運用などの共同化を図るべく、各都道府県に市町村を取りまとめるよう促している。
この点については、ヒヤリングを行った範囲内では、市町村の側は、県等からの話はあるが具体的ではないとか、共同化の働きかけを特に受けていないなどの答えが多く、県による共同化の動きをまだあまり意識していないように見受けられた。これは、共同化に対して積極的でない県等が多いためではないだろうか。また、共同化そのものについては、財政的な面や技術的な面から、やむ負えないのではないかといった声が聞かれる一方や、サービスレベルの低下を招かないかなどの危惧も出された。
県等の側は、国からの要請に従って何とかまとめようと、市町村参加による協議会などをつくり準備を進めているが、最終的にシステムの共同化に参加するかどうかは、あくまでも市町村の判断であり、全てが参加することになるとは考えていないようである。また、共同化の中心になるのは、電子申請と電子調達だと考えられているようである。
さらに、ヒヤリングをした市町村の中からは、電子自治体の構築の課題では県に指示を仰がなければならないような問題はなく、これまでも独自に進めてきた、県は広域的なシステムなどをやってくれれば良いのであって、そもそも市町村の実態がわかっていない県が共同化を進めることは無理があるなどといった意見が出された。また、自治体規模が全く違うのに同じシステム入れても効果はない、県を中心に共同というのはこれまでの中央集権型であり時代遅れである、地域にこだわることなく、考え方や自治体の規模、業務のあり方などを基準にして、共同化するほうが良いだとか、先進都市としては近隣の市町村と共同しても持ち出しばかりでありメリットはなく、むしろ先進都市どうし共同化したほうが良いという意見も見られた。
中には、共同化に積極的ではない県に頼らず、県央の大都市が音頭をとって、自らの既存のインフラを生かし、周辺の市町村と共同化を図ろうとしているところや、共同化は県単位なのか近隣などの複数自治体でやるのかまだ先は見えないので判断できないとする自治体もあった。
どちらにしても、電子自治体構築の課題にあっては、地方分権化の意識が広がるもとで、国が指示を出せば全ての都道府県が従う、また都道府県が声をかければ、全ての市町村が従うといった状況にないことは、確かなようである。
なお、現在のところ、県等は市町村から負担金などを集めて協議会などで共同化の調査研究を行っているが、システム開発や運用などを行う際には、市町村が、その経費を負担することになる。参加数が少なければ負担も大きくなる中で、今後、どう調整していくかも課題となってくるようだ。
政府は、電子自治体構築にあたってアウトソーシング(外部委託)や、民間企業などのIDC(インターネット・データ・センター)を活用することを提案している。その理由として、一つには、自治体がシステムを自前で開発し維持管理していくのに比して、経費を削減することができること、二つには、電子申請を24時間365日に受付けるには民間企業のシステムや施設を利用したほうが安全かつ確実であること、そして三つには、アウトソーシングによって民間企業に新しい市場を提供し地域の活性化につなげることができることを政府はあげている。
ヒヤリングを行った自治体の中には、コスト削減や、運用管理・セキュリティの問題からアウトソーシングやIDCの利用について進めてく必要があるという声や、衰退する地域の活性化のため地元企業に積極的にアウトソーシングを図り起業の機会を提供していくとする声がある一方、外部に出すからこそセキュリティをどうするかが問題になるとするところや、ソフトウェアの所有権や著作権の問題、責任の所在など整理すべき課題がたくさん残っていると指摘するもの、アウトソーシングは業者の言いなりになってしまうからすべきではないといった声もあった。
インターネットによる電子申請のスタートにあわせて、民間企業などに委託してコールセンターを設け、住民からの質問などを一括処理しようという動きもある。浜松市では、受付案内をデータベース化した支援システムを使った市民コールセンターが、2001年4月からスタートしている。もっとも、これは同市が長年取り組んできた総合窓口の経験をもとに、市民が気軽に問い合わせできるようにと設けたもののようであり少し事情が違うようである。
コールセンターについては、総合窓口的なものは必要だが自動化が必要かどうかは別の問題であり、窓口は市民と職員が接し対話するところであって、民間に委託して良いものかどうか疑問だとの声も出されたが、窓口業務は介護や保育、生活保護など相談業務に特化していき、それ以外のものはコールセンターで一括処理することになるのは時代の流れであるといった考えも聞かれた。
また、今回のヒヤリングの対象としてはいないが、電子申請の実施によって窓口を縮小し、将来廃止しようという動きも出てきている。こうした考えが出てくるのは、民間委託によるコールセンターの問題も含めて、当局が窓口業務の役割を不当に軽視しているからではないだろうか。
2003年8月に住民基本台帳カードが希望する住民に市町村から配布される。住基カードには、16000字程度の記憶容量を持つコンピュータの搭載されたICカードが使われる。この大きな記憶容量を生かして、市町村は条例に基づき、空き領域に福祉カードや図書カード、施設利用カードなどの様々な機能を載せることができる。
住基カード以外にも、健康保険証や、介護保険証などのICカード化が検討されているが、経済産業省は、これらのカードを診察券、プリペイドカードなどの民間のカードと相乗りさせ、1枚のICカードにすることにより、利便性を良くし、ICカードの普及を図ろうと考えている。このための実験として2002年1月から3月まで、横須賀市、藤沢市、多治見市、岡山市など全国21地域(54市町村)において、IT装備都市実証実験を行った(実験終了後、事実上の本格実施を行っている自治体もある)。実験の主な内容は次の通りである。なお、実験地域の総人口は約855万人、計画時のカード配布予定枚数は約120万枚である。
| 横須賀市 | NTTコミュニケーションズが開発し、三浦市、葉山町も参加。バス乗車カード・電子マネー・保育園サービスを実施。計画時の配布予定枚数50,000枚。 |
| 藤沢市 | NTTコミュニケーションズが開発し、国民健康保険などの資格確認・市民病院診療券・スポーツ施設予約を実施。同30,000枚。 |
| 多治見市 | NECが開発し、笠原町も参加。国民健康保険の資格確認・図書館カード・住民票等の自動発行・市民病院診察券・施設予約を実施。同42,000枚。 |
| 岡山市 | 日立製作所が開発し、市民病院診察券・介護サービス・電子マネー・電子認証・介護タクシー・バーチャル教育システムを実施。同35,000枚。 |
ヒヤリングの中で出された問題点や考えなどは次の通りである。実験であるため費用は経済産業省持ちであったが、今後の官民の費用負担や、責任の所在、載せる個人情報の範囲、カード表面への文字の記載ルール、生活圏を念頭に置いた他自治体との連携・標準化など解決しなければならない問題がたくさんある。実験のカードと住基カードとの関係を政府は示していないので、市としてどうするかの具体的な検討は、まだ先にならざるを得ない。民間の利用も含めた実験のカードと違い住基カードの方は制約が色々とあるので、住民は2枚のカードを使い分けることになるだろう。官だけのサービスでは住民の利点は小さく民間のサービスをも載せていく必要があるので、発行主体は官ではなく第三セクターが良いのではないか。
また、市民参加型のコミュニティー形成の為に設けられている市のホームページなどで住民などが意見を述べる際に、匿名性を排除するための個人認証としてICカードを使えるのではないかといった考えを示したところもあった。
なお、総務省は、この実証実験とは別にICカード標準システム実証実験を2001〜02年度にかけて、全国28市町村で行うとしているが、まだ、結果が示されておらず、今回のヒヤリング対象には含めることはできなかった。
パソコンの1人1台配置が進むもとで、メールや掲示板、情報共有などのグループウェアの導入とともに、文書管理や財務会計、出退勤管理、時間外勤務管理、出張管理、入札・調達などの内部情報システムの導入が進められている。
ヒヤリングの中で出てきた問題点はの一つは、LANによる内部情報システムと、これまでの住基や税などの基幹システムとを一本化していくのか、もしくは並立していくのかである。インターネットとの接続や、セキュリティの確保、コストの問題がある中で、机の上に二台の端末が並ぶという現実もあり、解決が迫られているようだ。
二つには、電子申請やLGWANに対応するため文書管理のシステム化を進めていっても、当面、紙の文書も残らざるを得ず併用する困難が生じる問題である。
三つには、研修の問題である。パソコンを使う全職員を対象とした研修は、場所も時間も確保するのは困難であり、また、セキュリティを含めた職員の意識改革をどう進めていくかも課題となっている。
四つには入札・調達システムをめぐる問題である。政府は国土交通省のシステムの採用を自治体に促しているようだが、横須賀市のように独自に開発し下関市に提供しているところもある。標準化の動きも含め、今後どうなっていくのか不透明である。
一方、大阪府では、府民サービスに直結しない内部管理のスリム化のためとして、人事・給与・福利厚生、物品調達などの総務関係事務を2002年度から向こう7年間にわたり総務サービスセンターで集中処理するアウトソーシングの長期契約を民間企業と結んでいる。システム開発・保守・運営から職員へのサービス(コールセンターやポータルサイトなど)の提供までトータルに委託することによって委託先に責任を持たせることが可能だとしているが、発生源入力方式の採用による庶務職員の削減や、職員への過重負担の問題、職員の個人情報保護などが問題となると思われる。なお、アウトソーシングに伴って民間のIDCを使うのかどうかは未定のようである。
また、ヒヤリングをした自治体の中からは、1人1台化が達成しシステムの整備が進めば、結果論として庶務事務はなくなるのではないかといった声も出されている。
パソコンの1人1台配置に関しては、財政問題もあり規模の大きな自治体では、達成に時間がどうしてもかかるようである。規模の小さな自治体のほうが進んでいるきらいもある。
住基ネットがスタートしたが、国民の間には、政府などによる個人情報の不正利用への懸念とともに、自治体から漏洩が起きるのではないかといった不安が渦巻いている。こうした中で、セキュリティポリシーを策定したり、指紋認証の検討や導入を図る自治体がいくつか現れてきている。
ヒヤリングの範囲内では、仙台市や東京都、世田谷区、横須賀市、川崎市などにおいて、セキュリティに係るポリシーや基準、マネジメントが策定されている。
また、システムへのアクセスに係るセキュリティについては、パスワードやICカードなどで対応しているところがほとんどであるが、川崎市のように、課長級以上の管理職の決裁として指紋認証システムの導入を図るところも出てきている。指紋認証システムの性能の向上と導入コストの低下は著しく、今後、住民の個人情報保護の要求にそうとして、他の自治体へと安易に拡大する可能性は大きい。究極のプライバシーである生体情報の保護と、自治体におけるセキュリティの確保をどうしていくか議論が必要であろう。
一方、住民情報の漏洩事件を経験した宇治市では、暗号化とICカードによるセキュリティ対策を独自に進め先進的なシステムを構築するとともに、不正侵入や漏洩を防ぐために住基ネットへの常時接続は行わず、更新時の数分だけ接続する対策を取っている。また、セキュリティの問題からIDCやASPの利用にも否定的である。
なお、市民が安心して電子自治体を利用できるようにするのは自治体としての責任ではあるが、利用者も含めて総コストを考える必要もあるとの考えを示す自治体担当者もいた。
「市民ニーズに即応した高度な行政サービスの実現、ITを活用した自治体の経営改革、個性豊かな魅力あるまちづくり、e-Japan戦略の地方における実現、全国自治体の情報化に対する貢献等を総合的に推進すること」を目的に、電子自治体の構築に積極的な札幌市、三鷹市、横須賀市、金沢市、浜松市、羽曳野市、岡山市、北九州市の8市による電子自治体市長会議(E8)が2002年7月スタートした。E8は、「国や全国自治体への提言・提案等の実施、会員間の情報(ノウハウ等)の共有と意見交換、会員が運用している(あるいは導入を検討している)システムの共同利用等の検討・具現化」を事業として進めるとしている。
ヒヤリングの中では、E8は、「国に政策提案し、変更させていくことによって電子自治体政策の主導権を握ることになるだろうし、いろいろな人口規模の市が入っている中でアプリケーションの標準形式を作り、システムの共同運用も図っていきたい」と積極的に評価する担当者がいる一方、「共同化の話もあるが、そう簡単に実現できるものではない。あれは話し合いの場」と評価の低い担当者もおり、今後どう展開していくのか、政府の施策や計画にどう絡んでいくのか、先は読めない。