![]() | IT革命・電子自治体構想と情報民主主義 2 |
政府が、電子政府を語るときに、私がいつも気になるのは、いかに住民サービスを向上させるかということが、非常に強調されていることです。確かに、行政がより良いサービスを国民に提供するのは結構なことで、それ自身を否定するわけではもちろんありません。高い税金を払ってるわけですから、その税金に見合っただけのサービスを政府や自治体から受けるというのは、当然のことだと思います。しかし、どうもその部分が強調され過ぎてるのではないでしょうか。そうではなくて、住民にしろ国民にしろ、これは主権者なんですよね。税金という代金を払って、サービスを受けるだけじゃなくって、サービスのあり方そのものを決める権利を持ってるわけですね、主人公なわけです。だから、そういう主権者にふさわしい形での電子政府なり電子自治体が構想されているのか、考えられているのかどうかということが、たいへん気になります。
どうも日本の場合は、国民が主人公であるということが、全く欠落しているようです。この欠落が、住民や国民への情報公開や情報提供の中身、質とか量とかや、また住民参加の限界を決めてしまうのではないかと思います。これは、民間企業とお客さんとの関係で考えてもらえば、わかると思いますが、お客さんに対して出す情報と、その企業のオーナーに対して出す情報とは、当然違うでしょう。大きな差があるわけですね。三菱自動車の例を出すまでもなく、欠陥車隠しと言われてましたけれども、企業にとって不利な情報は、普通出さないでしょう。ですから、単にお客さんとして住民をとらえていたのでは、電子政府、電子自治体における情報公開は、どうしても限られたものとならざるを得ないでしょう。国民をサービスの受け手、お客さんと見なしているだけでは、主権者が主権を行使するために役立つ電子政府や電子自治体は、到底実現されないのではないでしょうか。
自治省、現在の総務省ですが、昨年の8月に「IT革命に対応した地方公共団体における情報化施策等の推進に関する指針」を出しています。この指針に、「基本的な考え方」として3つ上げられています。今、言いましたような国民の主権、情報公開にかかわることとしては、その一つの「事務処理全般の見直しによる行政の簡素・効率化及び透明化」に「透明化」という言葉があるだけです。これだけなんですね。情報公開については、これ以上何も書かれていない。住民の主権に関わっては、もう全くないわけです。
また、昨年決められた「IT基本政略」、今年になって「e-Japan戦略」と名前が変わりましたが、この戦略の中に「電子政府の実現」についての方針も書かれています。戦略全部に目を通していただければ、この戦略の性格がよくわかっていただけると思いますが、ここの項だけでも読んでみてください。政府の電子政府に対する考え方がわかるかと思います。「基本的考え方」には、国民主権に関わるものとしては「行政の簡素化・効率化」が書かれているだけです。他には、何も書かれていません。
また、電子政府実現に向けての「推進すべき方策」として、6点が書かれています。この中の二番目に「官民接点のオンライン化」について書かれていますが、これはいわゆるサービス提供の意味でのオンライン化のことです。住民の行政への参加だとか、そういう意味でのオンライン化ではありません。そして、三番目に「行政情報のインターネット公開、利用促進」があります。見てもらえばわかると思いますが、たった2行、いや2行もありませんね、1行とちょっと、「インターネットを活用した国民と行政の間での双方向の情報交流を強化する。同様の取り組みを地方公共団体に要請する」と極めて抽象的な表現があるだけです。これで終わり。あとは、どこをとっても民主主義を促進するような形でのインターネットの利用や、電子政府の実現は、全く書かれていません。
これを、「まあそんなもんだろう」と思ってしまうと大きな間違いです。「全米情報基盤行動アジェンダ」というものがあります。これは午前中、黒田由彦先生(名古屋大学情報文化学部助教授)がおっしゃっておられたアメリカ政府のN I I (National Information Infrastructure)の行動アジェンダ、まあ行動計画書です。クリントン−ゴア政権が打ち出したもので、アメリカのIT戦略の基本になったものです。日本のe-Japan戦略に相当するもの、と言うよりe-Japan戦略は、これを真似したものと言うのが正確なんでしょうね。この第5章に、政府行動の原則と目標、政府は何をすべきかということが書かれていますが、この章の9番目の項目として、政府固有の情報を市民に提供し、政府調達の改善を図るということで、「トーマス・ジェファーソンは情報は民主主義の通貨であると言っている」と書かれ、納税者に対して情報提供をしなければならないということが明確にされています。民主主義との関わりをきちっと書いているのですね。
具体的には、情報公開に関連する3つの行動が上げられています。1つは、アクセス可能な政府情報の充実を図る。2つは、政府機関の提供を担う基盤について改良を図る。最後に、政府情報への市民アクセスを拡大する。これは、項目を並べてあるだけじゃなくて、その後にちゃんと文章がついています。全部コピーして資料として付けるのは、たいへんなのでやっていませんが、現状がどうであって、この目標を実現するためには、こういう手だてを打たなければならないということをきちっとプログラムとして書いています。日本の戦略とは、決定的に違います。真似をしながら、民主主義の部分については完全に落ちてしまってるんですね、日本では。
アメリカはいろいろあっても、どこまでが本気かと言われると疑わしいところもありますけれども、形だけでも民主主義でやっていかなければならい、民主主義をうたわなければ政策は実行できない、有権者を説得できないという、そういうところなんですね。これが日本の場合は、e-Japan戦略を全文検索したらわかるんですが、民主主義という言葉は一回も出てきません。そういう違いがあります。
日本の情報公開法は、みなさんもご存じのように、今年の4月になってやっと施行されますが、アメリカの場合は35年前の1966年に制定されています。その後、何度か改正もされてるんですが、最近の一番大きな改正は1996年、4年少し前ですね、10月の改正です。アメリカの情報公開法は、フリーダム・オブ・インフォメーション・アクト、略してFOIAというんですが、この改正を受けて頭にエレクトロニックのEをつけてEFOIAと呼ばれるようになりました。これは、情報公開の制度をIT政策に対応した形に変えていこうということですね。
何が変わったかというと、1つは電子的記録も公開の対象とする点です。当然のことながら電子メールも対象になります。役所内で交わされた電子メール、役所と外と交わされた電子メール、すべて情報公開の対象になります。もちろん、それだけじゃなくてさまざまな電子的な記録、文書ファイルやデータベースなどすべてのものが対象になるわけです。
それから、2つ目には能動的情報公開のインターネットへの対応です。何か難しい言葉ですが、簡単に言えばホームページに何でも載せていけということなんですね。ホームページ上に電子閲覧室というのを作って、ここにどんどん情報を載せていくのです。こういうと、「日本でも既にやっている」と言われるかも知れませんが、アメリカの場合は、日本のように役所側の任意ではなく、法律で義務付けられているのです。具体的に何を載せなければならないかが法律で決められた上に、法律で電子閲覧室を作ることが義務づけられているのです。何を載せるか役所の任意では、決められないのですね。ここが、日本と決定的に違うわけです。ですから、私は英語はほとんど読めませんから余り役に立たないんですけれども、英語の達者の方でしたら、日本政府からの情報よりもアメリカ政府からの情報の方がはかるにたやすく、たくさん手に入ることになります。
私の使っているパソコンの中、正確にはハードディスクの中ですが、カリフォルニア州とポートランド市の予算書が入っています。全部電子データです。どうして入ってるのかと言うと、それぞれのホームページから予算書を全部、ダウンロードしたのです。印刷したらたいへんな厚さになるようですが、それを全部、インターネット経由でとれるんですね。しかしですね、私が住んでる大阪府の予算書は、こんな形では手に入れることはできません。もし手に入れようと思えば、大阪府の情報公開コーナーへ行って、全文コピーしなければなりません。数百ページありますから、一体どれだけお金がかかるのか、考えるだけでぞっとします。もちろん、これは紙の上に印字された情報ですから、電子データのように全文検索することはできません。しかし、海の向こうのカリフォルニア州の予算書であれば、データの活用も検索も簡単にできる電子データの形で、いつでも手に入ります。こうした差が出ています。
それから改正の3つ目は、開示形態を請求者が指定できることです。電子形態での情報公開をやると、インターネットを通じてとか、フロッピーディスクでとかになりますが、それを家で見ようと思うと、そのファイルを開くことができるソフトがパソコンに入ってないと、問題が起きるわけです。一太郎で作った文書をワードで見ようとすると、ある程度の互換性はありますけれども、レイアウトが崩れたりするわけですね。昨日、お話をうかがったところ、岡山市役所の場合は、ワープロソフトは一太郎が基本らしいですが、パソコンにワードしか入っていなければ、岡山市から公開された情報をきちっと見ることができないわけですね。
アメリカに一太郎はありませんが、ワード以外のワープロソフトを使っている人もたくさんいますから、問題は同じでしょう。アメリカには、ビル・ゲイツが嫌いなアンチ・マイクロソフトの人が山のようにいます。ワードを使わない人、使いたくない人が一杯いるのです。ワードじゃだめだ、他のものに変えろと請求されると、アメリカ政府は、これに応えなければならないんですね。こうしたことがEFOIAで決められているのです。膨大な経費とか膨大な手間はかかる場合は別ですけれども、それほど手間がかからなければ、拒否できないのですね。この程度のファイル形式の変換は、それほど手間がかかりませんから、当然、応じなければならないわけです。
開示形態の指定は、コンピューターのファイル形式に関する話だけではなくって、点字化も含まれています。公文書を点字にして出してくれと言われますとアメリカ政府は点字にしなければなりません。音声テープにする場合もあるらしいですね。全部読み上げるわけです。点字が読めない視覚障害者の方は、たくさんいらっしゃるようです。年齢が上がってから失明された方の中には、点字が読めない方が多いらしいですね。そういう方のことも考慮して、音声テープ化も含めて、開示形態の変換に応ずることが義務づけられています。
ですから、アメリカの場合、日本と同じようにIT化とか、電子政府構築とか言いましても、民主主義なり情報公開のことと絡みながらやってきてるわけですね。ここが、日本と決定的に違うなと思う点です。アメリカの方がインターネットが進んでいて、日本が遅れているから、差が出ているわけじゃないんですね。要するに、やる気の問題です。日本の技術でも、簡単にインターネットから予算書全文をダウンロードできるようにできます。技術的には、何の障害もありません。ダウンロードするときに時間がかかるという問題や、電話代が高いという問題はありますが、インターネットのシステムとしては、全然問題がないわけですね。行政にやる気があるのかどうかというだけの問題です。もちろん、電子形態での情報公開も、開示形態の変換もです。
役所のやる気の問題で、最近、見ていておもしろいなと思ったことがあります。それは、自治省と郵政省が1月6日に合併して、総務省になりましたが、そこのホームページのことです。これまで郵政省のホームページは、非常に情報量が多かったんです。記者発表なんかも、きちっと早い時点で載りますし、審議会の記録なんかも結構載ったりするんですね。通信白書も3年分について、全文見ることができるようになっています。ところが、自治省の方は、ほとんどまともに情報を載せていないんですよ。記者発表なんかでも概要だとかで、省略されている場合が多いのです。それから、自治省が出してるのは地方財政白書ですけれども、全くホームページには載っていません。概要らしきものが、ちょこっと載ってるだけですね。それがくっついたらどうなったのか。私が見る限りでは、郵政省のホームページよりも、総務省のホームページの方が使い勝手がはるかに悪くなりました。自治省のレベルに合わせたようです。おそらく官僚同士の綱引きがあるんだと思いますが、綱引きがあれば、どうしても楽な方向、この場合は公開しない方向に行ってしまうわけです。総務省のホームページは、今のところ限りなく×に近い△の状態になっています。これもやる気があるかどうかの問題だと思います。
とにかくITを使ったからといって、行政の公開性や透明性が自動的に高まるわけではないことは確かです。例えば、いくつかの自治体では、最近、条例集をホームページに載せたり、議会の議事録を載せたりしてますが、こういうのは技術も経費もそんなに要らないのですね。特に条例集なんかでしたら、今までの印刷物より、ホームページやCD-ROMにした方が、費用がかからないようです。岡山市は、条例集をホームページに載せていらっしゃいますけれども、まだまだ、やってない自治体が圧倒的に多いわけです。しかし、問題なのは、ホームページに載せてもアドレスを公開していない自治体があることです。役所の職員は、ホームページ上で条例集を見ることができますが、住民は、たまたまアドレスを知った人以外は見ることができないのです。こんな馬鹿なことをやっている自治体もあります。とんでもないことですね。ですから、IT化による情報公開は、やる気があるかどうかにかかっています。自動的ではないということです。