![]() | IT革命・電子自治体構想と情報民主主義 1 |
午前中から色々とIT革命の話、電子自治体、電子政府の話があったわけですが、こうした問題を考える上で、どういう視点から点検、検討が必要なのか、私の考えをお話ししたいと思います。
今日は、市の職員の方もたくさんいらっしゃるようですが、一つは、電子自治体で職場がどう変わるのか、仕事がどう変わるのかということを見る必要があると思います。仕事のやり方や進め方だけでなく、労働条件の問題だとか働きがいの問題も出てくるでしょう。また、民主的な職場運営が可能なのかどうか、そういったことも考えていく必要があると思います。
もう一つは、住民の立場から、生活や地域がどう変わるのか、便利になるのか、民主主義の面ではどうなのか、基本的人権は守られるのか、侵される恐れはないのかなど、点検していく必要があると思います。
ただ、点検するときには、机上の「お話し」にならないように、具体的に見ていく、考えていく必要があると思います。電子政府や電子自治体が実現されると、「こんなに便利になりますよ」といった色んな夢が、たいへん饒舌に語られるわけです。しかし、こうした言説にあまり惑わされることのないように、地に足のついた、現実に即した形で見ていくことが大切です。今日のお昼休みの時間に、行なわれていました日立の電子自治体のデモンストレーションなんかを見てもそうですけども、ペラペラと非常にいいことが語られるわけです。そういうことが本当にそうなのかというのを、普通の住民の生活や、自分たちの職場の実態に、具体的に当てはめて見ていく必要があると思います。それぞれ地域の、ここでいうと岡山市ですけれども、岡山市民の生活の状況や、岡山市役所で行なわれている仕事の状態や、さらには岡山市の文化や歴史も含めて、現実に即して考えていくことが必要だということです。
もう少し具体的な話をします。例えば、岡山市役所では電子メールを仕事に使い始めたとのことですが、これからどんどんインターネットが市民の間に普及していって、市民からメールが次々に来るようになったときに、果たしてメールをどう取り扱っていくのかですね。
我々は、職員も住民もですが、電話とか文書だとか、また窓口での応対だとかいうのには、たいへん慣れているわけです。例えば電話なら、生まれたときから家にあったという人がほとんどでしょうから、それなりの使い方だとか、電話で市役所の職員が答えたことに対する信頼感というんですか、また逆に言うと、これはこの職員が勝手に言っている話ではないかとか、そういうことは何となくわかるわけです。けれども、メールになると今までのそういう電話での応対とは、全然違うものになっていくわけですね。
全て証拠が残るわけですよ。電話の場合、中には役所に電話をしてきて、一々録音する人もいるかもしれませんけれども、圧倒的多数はその場限りなわけです。言った言わないと揉めても水掛け論で終わってしまいます。しかし、電子メールの場合でしたらお互いに文書として残ります。その辺のことについても、実際どうなのかということを検討していく必要があると思います。メールを市役所に送れるから、「あ、便利ですね」という話だけでは、これはおさまらない。職場内で上司や、他の部局などとメールをやりとりする場合も、同様に残るわけです。
アメリカでは、電子メールが普及する前から、仕事のことで電話をすると、その通話の内容をお互いにタイプを打って文書にし、交換するといった習慣が、ある程度あったようですね。アメリカで長年仕事をされていた方から直接聞いたのですが、大学の中で教授同士で何か新しい研究などの取り組みをしようと思うときに、電話でどれだけ話をしても、後でお互いにタイプを打って文書の交換をしあい、こういうこと言いましたって確認しあうのが普通だったそうです。彼は、日本に帰ってきてから同じことをして、同僚から怒られたそうですが、「俺を信用しないのか」と言ってですね。要するに、そういう文化の上で電子メールが出てきたアメリカとは違って、電話でお互いの腹を探り合いながら、いい意味で探り合いながらの場合もあるかと思いますが、口約束で済ましてきた我々が、電子メールで本当にうまくやっていけるのかということ、コミュニケーションを巡る本質的な議論ですが、このことも考えていく必要があると思います。
岡山市の職員さんの中には、名刺に市役所から配られたアドレスを書いている方もいらっしゃるようですが、メールの扱いについて、多いに職場で議論されたらと思います。その際には、電子メールに対する市民の意識や、意見なども参考にしていただく必要がありますし、電話では意志疎通が困難でも、メールなら可能な障害者の方たちへの配慮も必要でしょう。
それから、住民にとっての利便性というときに、申請だとか届け出が家からできると言われてますけれども、果たして一般の住民が役所に対して申請や届け出を、年間どころか一生涯に、いったい何回するのかも考えてみる必要があると思います。転居が便利になると言いますが、私は生まれてから今まで転居は4回しかしていません。これから、仕事の関係で、まだ転居することもあるかもしれませんが、おそらく2桁になることはないと思うんですね。一般的にこの程度ではないでしょうか。
先ほど、日立の方は1回の転居の手続に1週間かかるとおっしゃっていました。確かに1週間かかるかもしれませんけれども、人間は80年生きてます、だいたいですが。それに、52週掛けてもらうと、4,160週になる。10回転居するとすれば、4,160週の内、10週がつぶされることになります。しかし、これがそんなに人生のマイナスになるのでしょうか。10週間が丸々潰されるわけではなく、その間に他のこともできるわけですからね。こうした時間を短くするために、ほんの少しの手間を省く代わりに、我々が失うものはないのか考えてみる必要があのではないでしょうか。例えばプライバシーの問題ですね。利便性に眼を眩まされることなく、現実に即して考える必要があると思います。
電子化すれば、役所に行く手間が減ると盛んに言われています。私は役所にいたのでよくわかるんですが、役所にいらっしゃる方というのは、住民票をとりに来るとか、印鑑証明が必要という方が、一番多いのですね。私がいた市役所でも、一番賑わってたところはもちろんそこですが、2番目はというと、健康保険、それから年金、そして税の窓口ですね。福祉関係も多いですね。
こうした窓口での応対は、ほとんどが何らかの相談業務を伴います。お客さんの話をサッと聞いて、「ハイハイ」って処理できる業務は案外少なくて、自分は年金を受けられるのかどうかだとか、保険料が支払えないけどどうすれば良いのかだとか、そういった話なんですね。税にしたったそうですね。私は税部門にいたのですが、証明をとりに来る人の中には、どんな証明が要るのか、自分でもわからない人が結構います。こうした証明は、どこかに提出するためにとりにくるわけですが、本人もよくわからないのですね。納税証明と課税証明の区別がつかなかったり、所得税と住民税の区別がつかないような人もたくさんいらっしゃいます。
それを一々、窓口で聞くわけです。どこへ出されるのですかとか、相手からどう言われたのですかとか、提出先から何か書類を渡されませんでしたかとか聞くのです。中には私の同僚で非常に親切な方がいまして、証明を求めてきた人の話を聞いても要領を得ない時には、どこへ出すのか聞いて、そこへわざわざ、金融機関だとか、そういうところへですが、自ら電話をかけて問い合わせていました。そこまでやると、逆にプライバシーの問題はどうなんだという反論もあるかもしれませんけれども、そういう業務が多数、私の経験からいうと占めていたわけです。こうした現実に対して、果たして電子自治体は、どこまで対応が可能なのでしょうか。
先日、私はある銀行へ行きました。預金をあまりしていませんから銀行に行く機会というのは滅多にないのですが、子供が高校に受かりまして入学金を払わないといけないということで、銀行へ行ったんです。ATMがありますね、お金の自動預け支払機というやつですが、そこでお年寄りが困っているんですよね。どうも振込をしようとしているようですが、やり方がわからないんです。私は、窓口から呼ばれるのを待ってロビーの椅子に座っていましたから、行って手伝ってあげようかとも思ったんですが、最近は、色々と物騒ですから、疑われるとややこしいのでやめてたんですけれども。
銀行の行員、パートの方かもしれませんが、女性の方が二、三人、案内係としてロビーにいらっしゃいます。その人たちが、こうやるんですよと教えてあげればいいわけですが、もう全員が他のお客さんにつかまってるんですね。唯一、あいていたのがだれかと言いますと警備員さんなんです。警備員さんは60過ぎのように見えましたが、困っているお年寄りのところへ、つかつかっと近づいて行きました。でもATMの画面を覗き込んで教えるんじゃないんですよ。覗き込んで教えると、それはあなたの仕事ではないと、勝手なことしたと、おそらく怒られるんでしょう。プライバシーの問題もあるかも知れませんね。背中を向けるんですよ、そのお年寄りに。背中を向けて全部ひとり言のように使い方を言っていくんです。全部暗記してるんですね、画面の展開を。すごい人ですね。おそらく、その銀行の退職者だと思うのですが、そういうふうに教えているわけですね。それで、やっと振込ができたわけです。こういう機転と言いますか、能力と言いますか、とても現在の機械では無理ですね。
こうした機械がうまく使えないのは、お年寄りだからということかもしれませんが、私は年齢が全ての原因だとは、一概には言えないと思っています。世の中には、高齢者でも、パソコンやインターネットをバンバンやっている人が、たくさんいらっしゃいます。現在のお年寄りの人たちが、若い時に、今の日本の科学技術、生産技術の水準を作ってきたわけです。今や世界のトップクラスである自動車だって、テレビだって、全部そうですよね。ですから高齢者の人たちの中に、機械に強い人がいても当たり前なのです。お年寄り全部が、ITには弱いと考えるのは行き過ぎでしょう。一方ですね、若い20代、10代の人でも、機械の駄目な人は、全然駄目なんですね。ですから、単に世代が交代しただけでは、みんながうまく使えるようにはならないんではないかなと思います。
ですから、電子自治体を作るには、具体的な場面を想定しながら、どう変えるのか、変わるのか、何が必要なのか、どう対応していかなければならないのかを、よく考えていく必要があるということです。それが、一つ目のお話です。