自治体は住民自治のために
財政情報をいかに公開すべきか
 −自治体広報紙の比較検討からその姿を探る−

「地方分権・自治体リストラと大阪の衛星都市」
  (社)大阪自治体問題研究所編、所収

1997年10月31日   黒田 充   

−−− その5 −−−

V 総合的な情報公開に向けた情報政策の確立を 

1. 財政情報の広報紙での公開の根拠

 これまで見てきたように、大阪府下のほとんど全ての自治体が、程度に差はあるが財政情報を何らかのかたちで、広報紙に掲載している。そこで、次に広報紙に財政情報を掲載する根拠はどこにあるのか見ていくことにする。
 まず、地方自治法は、予算ついては第219条第2項で「普通地方公共団体の長は、……予算の送付を受けた場合において……その要領を住民に公表しなければならない。」、また決算については第233条第5項で「普通地方公共団体の長は、決算を……その要領を住民に公表しなければならない。」と、それぞれ公表の義務を定めている。ただし、何をどういった方法で公表するかなど具体的な規定・基準はなく、この規定が広報紙への予算説明、決算報告の掲載を直接義務づけているとはいえない。
 また、財政状況については、第243条の3第1項で「普通地方公共団体の長は、条例の定めるところにより、毎年2回以上歳入歳出予算の執行状況並びに財産、地方債及び一時借入金の現在高その他財政に関する事項を住民に公表しなければならない。」と公表を義務づけている。この規定を受け各自治体は「財政事情の作成及び公表に関する」条例等を制定している。同条例等による住民への公表の手段については、自治体庁舎の玄関などに設けた掲示板への掲示による公表を規定している自治体と、公報や広報紙による公表を規定している自治体とに分かれる。
 前者の例として、「和泉市財政状況の公表に関する条例」は、第4条で「「財政状況」の公表は、掲示場または公衆の見易い場所にこれを掲示するものとする。」と規定している。また「松原市財政事情の作成及び公表に関する条例」は、第4条で「松原市公告式条例の定める方法により行なう」と規定している。池田市、泉大津市、柏原市、富田林市、吹田市、岸和田市、東大阪市、藤井寺市などが同様の掲示板方式をとっている。もっともこうした規定の自治体であっても、ほとんどが広報紙への掲載を行っている。
 後者としては、「堺市財政状況説明に関する条例」は第3条で「説明書は広報堺に搭載しなければならない。」と規定している。門真市、河内長野市、泉佐野市、四条畷市、大東市などが同様の広報方式をとっている。また、「寝屋川市財政状況の公表に関する条例」は第4条で「財政状況の公表は市公報によりこれを行なう。」と規定しており、枚方市や大阪市などが同様の公報方式をとっている。なお、広報とは自治体などが広く住民に知らせるために行うものであり、広報紙は基本的に全世帯に配布されるが、公報とは公の機関が公示のために発行する機関紙であり、全世帯を対象とはせずその発行部数は少ない。
 また、財政状況の公表に関する対象に、寝屋川市のように「12月に行なう財政状況の公表については、……前年度の決算の状況を明らかにするものとする」(第3条第2項)と決算を含める自治体や、羽曳野市のようにさらに予算をも含める自治体もある。
以上のように、公表する方法に違いはあっても、こうした規定は行政に対し、住民への財政情報を公表する義務を負わせたものであり、後にあらためて述べる情報公表義務制度に相当するものである。
 今後、地方自治法のこうした規定を生かし、予算・決算・財政状況の公表にあたって公開しなければならない情報のより一層の拡大・充実に向けた具体的な規定や、住民に知らせるという点で全く効果のない掲示板ではなく広報紙への掲載の義務付けや、将来的にはインターネットなどによる公表など、条例で規定させていくことも必要ではないだろうか。

2. 住民意識の流れと財政情報の公開

 これまで自治体の財政情報が住民自治にとって最も重要な情報の一つであるとしてきたが、具体的にはどうであろうか。次にあらためて、住民が自治体の財政情報にどのように関心を持ち、係わってくるのか、その意識の流れについて具体例を想定し検討してみることにする。
まず、広報紙から出発した場合を考えてみる。例えば、ある住民が自宅に配布された広報紙で予算の概要をたまたま見たとする。読んでみると、今年度の予算として土木費に○○億円使われることがわかる。その内訳を見ると道路関係費に○○億円、さらに具体的に△△道路に改良費として○○千万円使われることを知る。「本当にこの工事は必要なのか、何のため、どうしてこんなにお金がかかるのか」などと疑問を持つ。そこから自治体の財政への関心が高まる可能性が出てくる。
 逆に、身近な問題から出発した場合を考える。例えば、ある住民の家で年寄りが倒れ、介護のためにヘルパーが必要になったとする。早速、福祉課に相談に行くと、時間や回数など希望に合わない。「なぜできないの」と聞くと、担当者は「市に金がない」と返答する。「本当に市に金はないのか。福祉予算はどうなっているのか。市全体の予算配分はどうなっているのか」と疑問を持つ。そこから、市の財政状況はどうなっているのか知りたくなり、自治体の財政への関心が高まる可能性が出てくる。
 こうした自治体財政への関心の高まりから、中には自治体の情報コーナーや、図書館、財政課へ関係資料の閲覧に行ったり、疑問点を担当者に問い合わせたり、情報公開を請求したりする場合も出でくるであろう。さらに、得られた情報をもとに地方自治体の主人公として(被)選挙権、直接請求権、請願権などの行使や、住民運動などを積極的に進めていくこともあるであろう。
 以上のような住民の意識の流れに対して、行政は住民が満足する情報提供を行っているのか考察する必要がある。そこで、次に住民が財政情報にアクセスする場合の行政の対応を考えてみる。

3. 情報の取得難易度による情報取得方法の分類

 前述の「住民の意識の流れ」を踏まえ、財政情報の取得(アクセス)の方法を住民側から見た場合の難易度により分類すると図10のようになると考えられる。

図10
図10 アクセス難易度による
情報取得方法の分類

 なお、図10で示したTからWの各段階は、以下の通りである。

T 全世帯を対象に配布(伝達)され、特別な努力なしに情報を得られるもの
     広報紙、テレビ(CATV)やラジオ放送の広報番組など

U 図書館や市役所情報コーナー、関係課などで、名前や見たい理由などを
 特に明らかにしなくても情報が得られるもの
     予算書、予算の概要書、決算報告書、主要施策の成果の説明書、
     監査意見書、統計書など

V 情報公開(情報開示請求)制度などを使えば、情報が得られる可能性の
 あるもの
     財政運営計画書、交付税算出資料、起債計画書、補助金申請書、
     予算執行関係書類など

W 情報の公開がなされないもの
     意志形成過程関係情報、国その他の機関との協力関係情報、
     プライバシーに関するものなど

 ただし、各段階で例示してある資料・書類の公開については、各自治体毎に対応に違いがあると思われる。ある自治体では閲覧できる資料が、別の自治体では全く公開されていない場合もありうる。あくまでも推定による分類である。これまで検討したように予算に関して広報紙に掲載された内容が自治体毎に大きく違ったことから、こうした差違が生じるであろうことは容易に想像できる。
 また、ここで注意しなければならないのは、詳細な情報ほど、すなわちアクセスが困難な情報ほど、住民のその情報に対する理解が困難だとは、一概にいえない点である。むしろ、逆に情報の中身が具体的になるためにわかりやすくなる場合もある。行政内部では「詳しいことを説明しても、どうせ住民にはわからない。概要だけで良い。」という声がよく聞こえる。しかし、どこに、どれだけ、何のためにお金を使うのかという詳細な情報の方が、その具体性のために住民の関心・理解を得やすい場合もあることに、行政は注意すべきである。
 以上の点を踏まえ、住民が満足する情報提供を行政が行っていく上で必要なことを列記すると、

1. 行政は、住民の思考の流れの各段階に応じた情報を提供しているのか。また、提供するための窓口や職員などシステムの整備が図られているのか。
2. 行政は、住民が、財政に関する専門的な用語や、複雑なシステムを理解できるようにする何らかの方策を持っているのか。
3. 行政は、住民の思考の流れを踏まえ、総合的な情報政策の一環として、広報紙による財政情報の提供を行っているのか。

4. 広義の情報公開制度を

 現在、政府が制度化を検討している「情報公開法」や、自治体が制度化している「情報公開条例」は、一部の例外を除き前述の分類ではV(以下「情報開示請求制度」とする)に相当する。しかし、情報公開を行政が保有する情報を住民が何らかの方法で取得する制度だと、広義で考えれば、T〜V全てを情報公開と見なすことができるのではないか。逆にいえば、Vの情報開示請求制度だけが整い、T及びUの制度が不充分であれば、住民は財政状況全体を理解することは困難となるのではないだろうか。すなわち、住民は、情報開示請求制度によつて、昨今問題となっている交際費や食料費などの使途については関係書類を請求できるので、これを明らかすることはできる。しかし、行政全体としての予算配分については、情報開示請求制度によって個々の書類を請求しても、全体像を把握することが困難という事態が生じるのであろう。これでは、住民自治を進めるための「情報公開」とはいえない。
 情報公開を情報開示請求制度の狭い意味で捉えることなく広報紙などの情報提供も含めた広義な意味で捉え、総合的に発展させることが必要ではないだろうか。こうした点について、西尾 勝は、情報公開の体系を表3のようにまとめた上で、「情報提供施策と情報公開制度、情報公表義務制度と情報開示請求制度、特定情報開示請求制度と一般情報開示請求制度は、それぞれ独自の機能を分担しながら、互いに補完し補強しあっているのであって、情報公開を推進するためには、それぞれをバランスよく発展させることが肝要」[5]としている。

表3 情報公開の体系  出所:西尾 勝「自治体における情報公開の推進を求めて」
  特定の者に公開するもの 不特定多数の者に公開するもの
情報公開が
政府機関の裁量に委ねられているもの
(情報提供施策)
積極的な情報需要の存在を前提にしないもの
(広報施策)
紹介案内
資料提供
指導助言etc.
施設案内、行政資料の刊行、配布、販布等の個別広報
広報紙誌の発行等の総合広報
etc.
積極的な情報需要
の存在を前提にするもの
(情報センター施策)
案内窓口
相談窓口
個別窓口の情報展示コーナーetc.
議会図書館(室)
資料室、刊行物センター
公文書館(室)
図書館(室)etc.
情報公開が
政府機関に義務づけられているもの
(情報公開制度)
開示請求を
前提にしないもの
(情報公表義務制度)
行政手続の一環として行われる告知、教示etc. 会議の公開、議事録の公表
条例等の公布、告示
公報による公表、告示
財政状況の公表、計画、アセスメント報告書等の縦覧
開示請求を
前提にするもの
(情報開示請求制度)
証明書の交付
個人情報の開示請求
行政手続の一環として行われる関係文書の閲覧請求etc.
(特定情報開示請求制度)
情報公開法(条例)に基づく情報の開示
(一般情報開示請求制度)

 こうした広義の情報公開として総合的な情報公開政策を規定している条例として「東京都公文書の開示等に関する条例」[6]がある。同条例はその目的として第1条で「情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定め、もって都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に促した都政を推進することを目的とする。」と定めている。そして第16条で都の責務として、開示請求制度の他に、情報提供施策、情報公表施策の充実を図り、情報公開の総合的な推進に努めること。また、情報収集・提供機能強化、有機的連携の確保、情報の有効活用のための情報管理体制の整備に努めることを定めている。さらに情報提供施策の拡充について第17条で、また第18条で情報の公表制度の拡充等を規定している[7]
 東京都の条例の様に、総合的な情報公開とはいかないが、大東市も情報公開条例の第15条で「実施機関は市民が必要とする情報の把握に努め、市政に対する正確でわかりやすい情報を市民が容易に利用できるよう、情報提供施策の拡充に努めなければならない。」と情報提供施策の拡充への努力規定を設けている。池田市の情報公開条例にも同様の規定が存在する。ただ、前述したように大東市の広報紙における予算説明記事の貧困さから考えれば、同条文は、かなり現実とかけ離れたものとなっている。大東市の情報公開条例は97年3月に公布され同年10月より施行されることとなっており、今後、この情報提供施策の拡充の規定を空文にしないよう行政に格段の努力が求められる。
 また、日本の情報公開条例の制定に強い影響を与えてきたアメリカの情報自由法(the Freedom of Information Act FOIAと略称される)[8]は、情報開示請求制度とともに、政府機関に公表義務及び自動公開義務を定め、広義の情報公開としての性格を有している。すなわち、政府機関の公表義務として、「公衆の指針のために、次の事項を項目別に記述し、かつ連邦公示録にその都度公告しなければならない。」として、中央及び地方組織等の所在地、各行政機関の機能を方向づけ決定づける一般的な方針、手続に関する規則、法律の授権によって採択された一般的に適用できる実体的規則、及びこれらの事項の集成、改正または廃止などをあげている(第552条(a)(1))。そして、政府機関の自動公開義務として、「次に掲げる次項を公衆の閲覧及び複写に供しなければならない。」として、事件の裁決において示された命令及び最終意見、行政機関が採択した連邦公示録に公告していない政策声明及び解釈、公衆の成員の利害にかかわる職員用手引及び職員への命令をあげている(第552条(a)(2))。
 今後、各自治体は情報公開を情報開示請求制度の狭い意味で捉えることなく、住民が必要とする情報の積極的な提供や、行政情報コーナーや公文書館の設置なども含めた総合的な情報公開に向け、住民自治の一層の促進のための情報政策の立案、実施を行っていく必要があるであろう。

5. 情報提供の方法を考える

 本稿では情報公開の手段として広報紙を扱ってきたが、昨今のパソコンやインターネットなどの機器や情報通信システムの急速な発展、普及を踏まえて、今後の情報提供のあり方についても考えていく必要がある。今回の調査研究で対象とした予算説明や、また決算報告、財政状況報告など数字を扱った情報の提供については、これまでの広報紙など印刷物によるよりもパソコンでそのまま使えるような媒体、すなわちフロッピーディスクやコンピューターデータ記録用読取専用コンパクトディスク(CD−ROM)等によるディジタル情報での提供の方がはるかに扱いやすい。経年比較や他の自治体との比較をする場合、パソコン上で表計算ソフトを使えば、これまでの紙と鉛筆、電卓よりもはるかに早く正確にできる。また、予算説明や決算報告において全ての施策、事業について詳細に広報紙に掲載することは紙面数からいって不可能であるが、これもフロッピーディスクやCD−ROMで提供すれば実現可能である。フロッピーやCD−ROMをパソコンに挿入し検索ソフトで関心のある事項に関連する施策や事業について検索をかければ、たちどころに必要な情報を手に入れることもできるのである。
 もちろん、広報紙の配布をやめ、全てこのやり方をということではなく、広報紙は引き続きその内容の向上に努めるとともに、より詳細な情報については、必要な住民が請求すれば行政情報コーナーなどで実費でフロッピーディスクやCD−ROMの形態で頒布するというシステムにすれば良いのである。中身は異なるが、すでに政府機関の方では、環境、経済、中小企業、犯罪、防災、防衛の各白書をCD−ROM化し、それぞれ1万円弱で頒布しており、今後自治体においても実現に向けた検討が必要であろう。
 さらに、最近、発展・普及の著しいインターネットによる情報の提供についても研究する必要がある。例えば、アメリカのカリフォルニア州は、ホームページ(http://www.dof.ca.gov/html/bud_docs/bud_link.htm)で州の予算書を提供しており、何人であっても、アメリカに居ようが、日本に居ようが関係なく、ただパソコンの画面をクリックするだけで、ダウンロード、すなわち手元のパソコンのハードディスク上に予算書を手に入れることができるようになっている。
 情報公開の先進国であるアメリカでは、政府記録の電子化の進行への対応として、情報自由法の改正である電子的情報自由法(the Electronic Freedom of Information Amendments of 1966 EFOIAと略称する)が1996年10月に制定された。同法は、公開の対象となる記録についての定義を置き、電子的記録も含むことを明らかにした。また、公衆の閲覧複写に供しなければならない記録であって1996年11月1日以降に作成されたものについては、当該日から一年以内に、インターネット等のコンピューター通信の方法によっても入手しうるようにしなければならないと定めている。さらに、開示請求による情報の開示にあたっては、請求者が指定した形態で開示することを義務づけている。すなわち、A機種のパソコンで作成された記録を請求者がB機種のパソコンで利用可能な形態にと指定すれば、複製が容易になしうる場合は行政機関は指示どおりの形態で複製し開示しなければならない。もしインターネットで入手できる形態を指定されれば、行政機関はその指定どおりにしなければならないわけであるから、地理的限界を超えて、情報を容易に入手しうるようになる。この改正は、政府の情報は容易に入手可能であるのみならず、容易に利用可能なものであるべきという哲学にも裏打ちされている。電子的記録の場合、コンピューターを用いれば数秒で処理しうる作業が、紙の記録であるため、作業に数年かかるということはありうることである[9]
 現在、日本でも多くの自治体がインターネット上にホームページを開設している[10]。しかし、その内容は、自治体概要や首長あいさつ、観光・イベント・物産情報など市政要覧や広報紙の域を脱していない[11]。こちらの分野でも政府機関が先行しており、各省庁のホームページでは審議会の答申や記者会見資料など行政資料の要約や全文の掲示を行っている。また、各種統計については、まだごく一部ではあるが経済企画庁や総務庁統計局、厚生省、通産省などでは表計算ソフトでそのまま使えるデータ形式でのホームページからのダウンロードサービスを始めている。今後、自治体においても、ホームページを従来の見ても役に立たないようなカタログ的な代物から本格的な行政情報の提供媒体に変えていくべきである。まだ日本ではインターネットを利用している人は少ないが、今後増加が多いに見込まれる[12]。また、ホームページを開設するだけならそれほど経費がかかるものではなく、技術的な困難さもさほど大きくはない。さらに既に多くの自治体で行政文書や統計の作成にあたってパソコンが多用され、ホームページに掲載するために改めてデジタル情報に変更する必要も今後急激に減っていくことが予想される。インターネットによる情報提供についても近い将来の実施に向け自治体として多いに検討していく必要がある。
 もちろん、こうした情報公開の電子化を進めていくにあたっては、パソコンなどの機器を所有していない、またインターネットを利用できない住民に対し、情報弱者をつくらないために、市役所ロビーや図書館、公民館などの公的施設にパソコンなどの機器を設置しインターネットに接続し、容易に利用できるようにするとともに、その操作方法の習得について支援を行うようなシステムが必要である。

もどる   次へ   ホームへ