![]() | 第43回自治体学校・中規模教室「自治体のIT戦略」レジュメ |
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情報通信産業を中心とした財界の代表7や竹中慶大教授(現、経済財政担当相)らを構成員とするIT戦略会議(議長:出井ソニー会長)が2000年11月に打ち出した「IT基本戦略」を、翌年1月、政府は「e-Japan戦略」と名称を変え国家戦略として決定した。「5年以内に世界最先端のIT国家を目指す」この戦略は、「電子情報を紙情報と同等に扱う行政」、すなわち電子政府(中央省庁だけでなく自治体も含めて)を2003年度に実現することを4つの重点政策の一つとして掲げている。一方、自治省(現、総務省)は、2000年7月、「IT革命に対応した地方公共団体における情報化施策等の推進に関する指針」を策定し、12月には、『電子自治体』の構築に向けた「地域IT推進のための自治省アクションプラン」を示した。これは、2003年度までを期間とした極めて具体的な計画書である。
パソコンが、職員1人に1台配置される。これらは、庁内LANで結ばれ、インターネットへも接続されている。職員1人1人が、電子メールアドレスを持つ。文書の電子化、データベース化により役所内での情報共有が図られる。庶務事務や会計事務などが電子化される。住民基本台帳ネットワークがスタートし、住民にICカードが配付される。政府と自治体との文書交換・情報交換は、総合行政ネットワークにより電子化される。電子調達・電子入札が行なわれる。住民や企業から、インターネットによる電子申請を受け付ける。地方税の申告もインターネットで行なわれる。インターネット上での印鑑証明である本人確認のシステムが稼動する。電子機器を利用した選挙が行なわれる。インターネットによる住民への情報提供が行なわれる。これが、今、想定されている『電子自治体』である。政府は、これら全てではないが、大部分を2003年度までに実現しようというのである。準備のために残された時間はあまりない。
このように政府が『電子自治体』の構築を急ぐ理由は何か。行政の電子化は、国・地方を通じた財政危機への対処の一つとして、すなわち、人減らし合理化、経費削減という狭い意味での行政改革としての意味をもちろん持つてはいる。また、これまで取り組まれて来た行政情報化計画の多くが、主たる目的を行政改革に置いてきたのも事実である。しかし、今、政府が進めている政府・自治体のIT化の目的を、こうした点だけに矮小化して捉えるのは、甚だしい間違いである。国家間競争に打ち勝つべく進められている「構造改革」の一部であると同時に、そのための手段でもあると見るべきであろう。「e-Japan戦略」は、IT革命への取組の遅れが「将来取り返しのつかない競争力格差を生み出すことにつながること」を認識すべきだとし、「構造改革の方向性と改革の道筋を具体的に描いた国家戦略」が必要であり、「国・地方が相互に連携して、市場原理に基づく開かれた市場が円滑に機能するような基盤整備を迅速に行なう」ことが必要だと説く。そして、電子政府は「ITがもたらす効果を日本社会全体で活用するための社会的基盤」だと規定する。
遡る1999年12月、経済競争力会議での議論をもとに、小渕政権は、「21世紀初頭にも世界でも最高水準の電子政府の実現を図る」ために、「2003年度までに、民間から政府、政府から民間への行政手続をインターネットを利用しペーパーレスで行なえる電子政府の基盤を構築する」としたミレニアム・プロジェクトを決定した。翌年11月のIT戦略会議第5回会合で示された基本戦略の草案は、この決定を踏襲し「2003年度に向けて行政手続きのオンライン化を柱とする実現計画を定める」としていた。
しかし、これに対し、2003年度までにインターネットで国の実質的にすべての行政手続を可能にし、2002年度内に大半の行政手続についてこれを実現するというのが経団連の意見であるとして、「もう少し踏み込んだ書き方をしていただきたい」との意見が出された。また、これに先立つ8月、経団連は、「電子政府の実現は、『社会』全体のIT化を推進し、全ての『個人』、『企業』がIT革命がもたらすデジタル・オポチュニティを積極的に活用することを可能にする。グローバルな規模で経済社会の構造が変化する中、電子政府は21世紀の日本に豊さと活力をもたらす重要な取り組み」であり、「政府も国際的な制度間競争にさらされているという意識」を持って、「電子化された『世界最高水準』の政府を目指す必要」があり、「電子政府化の取り組みを早急に強化・加速しなければならない」とする「『一つ』の電子政府実現に向けた提言」を行なっている。こうして、冒頭で述べたように、「IT基本戦略」では、電子政府・自治体を2003年度に実現することが明記されたのである。
また、この経団連の提言は、「IT基本戦略」だけでなく、「地域IT推進のための自治省アクションプラン」など総務省のIT政策全般にも大きな影響を与えている。
問題点の第一は、『電子自治体』の構築は、国民や住民の要求ではない点である。電子政府を求めているのは、先に示したように財界であり、進めているのは、この意を受けた自公保政権と、総務省などの官僚である。国民的な議論は全く行なわれていないだけでなく、自治体の関係者の大多数も、その内容について理解していない。「IT基本戦略」の議論には、岐阜県知事(元建設省官僚)が加わってはいたが、彼は全国の地方自治体を代表していたのではない。地方六団体にできたのは意見を文書で提出することだけである。また、「地域IT推進のための自治省アクションプラン」は、自治省官僚の作文である。
問題点の第二は、個々の自治体の実情や経過などを無視し、コースもゴールも勝手に決められた一律的な押しつけ政策であり、自治の観点が全く欠落していることである。インターネットを中心とするIT(情報通信技術)は、人類の獲得した技術の一つとして、豊かな暮らしをもたらすとともに、民主主義や住民自治の発展に貢献する可能性をも持っている。したがって、個々の自治体が、住民の要求に基づき、住民参加で、暮らしに根ざした形で、IT化を進めることは否定されるべきものではない。また、そうした動きに対して、政府が様々な援助をすることも当然必要であろう。問題は、国家間競争の中での「日本の生き残り」を大義名分として、IT化を問答無用に押しつけていることにある。
第三は、プライバシーが危険に晒されるだけでなく、個人の人格、生活、人生そのものがネットに取り込まれ、「国家」によって管理される可能性を持っている点である。国民全てに番号を付ける住民基本台帳ネットワークの一環として、本人確認情報を載せたICカードの配付が予定されている。このカードは、インターネット上での印鑑代わりの使用が想定されているだけでなく、「利便性」を理由に、健康保険や、介護保険、年金、診療カルテ、図書館利用などの個人情報をも載せ、さらにクレジットカードやキャッシュカードの機能も持たせようという計画が具体的に進められている。
第四は、地方自治そのものが危うくなる点である。政府は、オンライン化のために必要だとして自治事務等の標準仕様の策定を進めている。標準化の範囲はわからないが、自治体行政の独自性が発揮できなくなることも大いに予想される。これは、行政手続の標準化によるコストの削減を狙う「『一つ』の電子政府」の実現を求める財界の要求に応えたものである。また、全ての自治体と霞ヶ関を結ぶ総合情報ネットワークは、情報の一極集中をもたらし、中央政府による自治体の統制に力を発揮するとも考えられる。
第五に、IT化ができない、したくない国民、住民を置き去りにしようとしている点である。政府は、全国一律かつ通り一片の「IT講習」を進めているが、その効果は甚だ疑問である。一方、財界は、政府や自治体がIT化すれば、中小企業なども含めて国民は自ずとIT化せざるを得なくなると、あくまでも自己責任と嘯いている。森首相の提唱した「IT国民運動」は、「世の中に取り残されてもよいのか」と迫る脅迫政策である。
そして、最も重大かつ基本的な問題点は、電子政府を推進する側に、全く民主主義の観点がないことである。国民、住民は、税を支払い、その対価としてサービスを受ける者としてのみ捉えられている。税やサービスのあり方そのものを決める主権者としては、捉えられていないのである。
第一に、国民、住民に対して、政府や財界の意図と計画を徹底的に暴露する。そのためには、情報の収集・交換・共有が必要。
第二に、自治体が進めるIT政策化を政府追随ではなく、地域住民の要求、くらしに見合ったものに転換させる。必要なのはトップダウンではなく、参加と合意。
第三に、「良いサービス」とは何か、自治体の存在意義とは何か、公共性とは何かを、あらためて問う議論を進める。これは、「構造改革」路線への反撃でもある。
第四に、ITを地方自治、とりわけ住民自治に生かすべく、積極的に提案をし、自ら実践する。インターネットは、政府や自治体の民主化の武器としての可能性を秘めている。
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