![]() | IT革命・電子自治体構想と情報民主主義 3 |
これから税金をどんどん使って電子政府、電子自治体を作っていくわけですが、では市民はどうするのかという問題があります。政府も自治体も電子化されたときに、これに対応できるのは、言わば「電子市民」でしょう。では、市民は、自己責任で、自ら電子化、すなわち、自分の財布でパソコンを買ったり、インターネットにつないだり、パソコン教室に通ったり、ハウツウ本を読んだりして、「電子市民」にならなければならないのでしょうか。そこが、これから非常に大きな問題になってくるんじゃないかと思います。
どういうことかと言うと、例えば、役所が明日から突然、日本語をやめて全部英語にしますといった場合にどうなるかということです。英語にしてしまえば、ほとんどの市民は役所に電話一つできなくなります。役所へ行っても全部英語ですから、どこに何の窓口があるのかすらわかりません。案内所で尋ねることもできません。住民は、英語を話せるように、自費で英会話を学ばなければならないわけです。
役所が勝手に電子化されて、市民がほったらかしということでは、結局これと同じことです。コミュニケーションができなくなるわけですから、政府や自治体の役所が電子化するのであれば、市民も電子化できるように、政府や自治体として何をしなければならないのか考えていく必要があるでしょう。
また、いくら安くなったと言っても、パソコンは最低でも10万円前後しますし、電話代も市内通話であれば3分10円もかかるわけです。この費用負担をどうするのか。もちろん、それだけじゃなくって、まだまだパソコンの操作は難しいですし、それからウインドウズが搭載されたパソコンは、しょっちゅう動かなくなるわけですから、サポートもいります。こういうことも全部トータルで考えていく必要があると思います。
今日、情報格差、デジタル・デバイドというのが問題になってきています。デジタル・デバイドというのは、インターネツトへのアクセス手段を持つ者と持たない者の間に、情報を得る上での格差が生まれていることを言います。この格差が経済格差を生み出し、経済格差がまた情報格差を生み出すという、悪循環になっているとも言われています。ですから、貧乏人はずっと貧乏人のまま、お金を持ってる人はお金を持ってる人のままというように、IT化によって、所得階層がどんどん広がり、そして固定化されていくんではないかという話ですね。
こうしたことが日本で議論されるようになったのは、アメリカの商務省から出された「ネットからの転落」という表題の報告書が、1999年に紹介されたことからです。年間所得75,000ドル以上の世帯と、それ以下の世帯ではインターネットの利用で20倍以上、コンピューターの所有で9倍以上の差がある。また、黒人・ヒスパニック世帯と白人の世帯では、インターネットへのアクセスに大きな差があり、同じ低所得層でも農村部と都市部でも大きな差があると報告されています。もっとも、これが初めての報告書ではなく、これ以前にも、商務省から2回出されていますし、また、昨年も、調査が行なわれ新しいものが10月に明らかにされています。この新しい報告書には、相変わらず情報格差は存在しており、むしろ広がっていると書かれています。
一方、日本の場合どうかと言いますと、公的な調査は、これまで行われて来なかったようで、99年4月に行われた平成11年度通信利用動向調査によって、初めて実態が明らかになりました。これは、郵政省の調査です。非常に大ざっぱな分け方ですが、特別区、政令指定都市、県庁所在地と、町村の間で、インターネットの普及に2倍近い開きが生じている。それから世帯主年齢で見た場合は、40歳未満と、それ以上で1.5倍以上、2倍近い開きがある。年収では、もっと大きな差があり、600万円以上では26.8%ですが、600万円から400万円で13.4%、ちょうど半分ですね、400万円未満になると5.5%に下がっています。お金もないのに、パソコンを買って、インターネットにつなげるはずがないと言うのは、ある意味当たり前なのですが、もっと問題なのは「今後もインターネットを使う必要はない」と思ってらっしゃる方が所得が低いほど多いことです。特に400万円未満では61%の人が今後も使う必要がないと答えています。ということは、このまま放っておいたのでは、自分で何とかお金を工面して、貧乏だけれども、インターネットをやってみようかというようにはならないということです。こうしたことをどうするのかも、自治体として考えていかなければならないわけです。
要するに、自治体を電子化する以上、住民に対しても責任をとっていく必要があるということです。ただ、責任があるからといって、例えば、役所が低所得者用にパソコンを買って電話線をつないでインターネットをやってくださいということがいいとは、そんな単純には思っていません。どういうやり方がいいのか、どうすればいいのかということを、一律的にではなく、それぞれの地域の実情に応じて考えていかなければならないと思います。
有名な富山県の山田村では、全世帯にパソコンを無償で配りました。けれどもあれと同じことを岡山市でやるということになると、これはちょっと止めていただいた方がいいんじゃないかなと思います。山田村は小さな村ですから、住民と役所の間に、それなりのコミュニケーションが確保されており、コミュニティーで合意が得られるわけでしょうし、国もモデルケースとしてお金を出したわけでしょう。そこを岡山市でも同じようにすべきだなどとは、とてもじゃないですが、思わないわけです。ですけれども、それぞれの自治体で考えていく必要があることは確かです。そのときには、ぜひ政策の裏づけとなるような科学的な調査をまずしていただきたいと思います。
しかし、どうも日本政府のやる政策は、科学的な裏づけがない場合が、たいへん多いようですね。ダムとか諌早湾の干拓とかだけではなくって、IT政策でも科学的な裏づけがないようです。岡山市でも実施に苦労されていると思いますが、IT講習会をやっていますね。政府が音頭をとって全国3,300の自治体にやらせていますが、この政策の基本は何かというと、日本国民のインターネットの普及率が低い、なかなか上がってこないというのは、国民がインターネットの使い方、パソコンの使い方がわからないから、これを無償で教えればみんなが使えるようになりますよ、こういう考えですね。しかし、果たしてそれが本当なのかどうか、裏づけになるようなアンケートなり、ちょっとした科学的調査などが、行なわれたとは聞こえてきませんね。これで本当にうまくいくのかどうか、直に結果が出るとは思いますが。
ところで、このIT講習は、全国で画一的に実施されています。地域によって住民層は色々と違うわけですよね。高齢者の多いところもあれば、若い世帯が多いところもあります。にもかかわらず、どこでも講習は12時間で内容はこれと、政府の方で全部決められています。これでやっていって本当にうまくいくのか、どうも税金のむだ遣いになるのではと危惧しています。
政府の計画の参加目標は550万人です。日本国民の二十数人に1人が、講習に参加することになります。膨大な人数ですね。岡山市なんかの場合でしたら都市部ですからそれほど問題はないかとは思いますが、市町村によれば講習者の人数が確保できなくなるところも出てくると思います。習ったってどうせパソコン買わないし、買ったところで使えないなと思ってる人が多いと思います。ですから、なかなか行かない。行かなければどうなるかというと、役所から動員がかかるかも知れませんね。町会とか、老人会や婦人会から「ちょっと行ってんか」ということで、仕方なく参加する。参加して家に帰ってきても、パソコンはないし、買う気もないというようなことも起きるかも知れません。講習会を開く前に、インターネットはこれだけ便利ですよとか、インターネットにつなげれば行政からこういうサービスを受けられますよとか、きちんとメニューなどにして出した上で、講習会をすれば変わってくるかも知れませんね。また、地域で受け皿となるような組織やシステムを作ることが先かもしれません。しかし、現実には、それが逆転してるわけですよね。ですから、私は、これは下手をすると膨大な税金のむだ遣いになるのではないかと思います。