※ 論文中の図表等は略しています。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 自治体は住民自治のために財政情報をいかに公開すべきか 自治体広報紙の比較調査結果から                             1997年10月31日                             黒田 充 I はじめに  地方自治は、地域コミュニティにおいて、中央政府の指示・介入なしにその運営を自主的に行うという意味の団体自治としての側面と、地域住民の意志に基づいてその運営を行うという意味の住民自治としての側面を持つ。  しかしながら、住民が自らの意志で自治体の運営を行うとき、自治体とその運営に係わる情報を住民が知らなければ、住民の利益となる正しい判断は到底できない。情報が住民の手になければ真の住民自治は実現されず、情報を一手に握る一部の官僚による住民支配となってしまう。こうしたことを防ぐため、国民の知る権利の保障を前提としつつ、住民自治を実現していく保障として、全国で400近い自治体が情報公開条例を制定し1、さらに多くの自治体で制度化の動きが進んでいる。しかし、これらの条例の多くは、公開請求を前提とした情報公開、すなわち情報開示請求制度のみを定めたものである。もし、全ての情報が開示請求によらなければ公開されないというのであれば、むしろ実質的に知る権利を奪うものとなってしまう。開示請求を受けるまでもなく、行政に係わる基本的な情報など可能な限り、広報紙などを通じてあらかじめ住民に公表、提供しておく、もしくは公文書館や行政情報コーナーなどで住民が情報に簡単に接することができるようにしておく、また公表する情報の中身も条例で義務づけるようにする。すなわち情報提供制度や情報公表義務制度の拡充・拡大が必要である。もちろんこうした制度には、情報操作による行政の住民支配を防ぐため、提供された以上の詳細な情報の公開を請求できる、また提供された情報の真偽のほどを確認できる開示請求制度の存在を前提としなければならない。  ところで、地方自治体の予算・決算及び予算の執行状況、財産や地方債の運営状況、さらには財政運営計画等の財政運営に関する情報、すなわち財政情報は、自治体運営における最も重要かつ基本的な情報である。住民から直接、間接に集められた税金をはじめとする資金を当該自治体がどのように配分、運用するかは、その地域に暮らす住民の生活にとって決定的な意味を持つ。福祉か、産業育成か、開発事業か、どこに重点を置くかによって住民生活は大きく影響を受ける。例えば、府下の多くの自治体では、財政危機を理由に「行政改革大綱」を作成し福祉や保健、医療サービスなどへの大幅なカットを進めようとしている。しかし、一方で開発行政や箱物行政といわれるゼネコン奉仕型の行政は続けている。こうした行政のやり方が妥当なものであるのかどうか、自治体の主人公として住民が判断する上で、本当に金はないのか、金の使い道は間違っていないのかなど財政情報を知る必要がある。したがって、財政情報は、情報開示請求制度だけでなく、先に述べた情報提供制度や情報公表義務制度の対象となるべきものである。  では現実に、自治体の財政情報が、住民にどのように、またどの程度知らされているのか。特に、住民にとって最も身近な地域情報の提供媒体である自治体広報紙において、どのような扱いがなされているのか。住民自治にとって満足のいくものなのか、問題はないのか、改善すべき点はないのか。こうした問題意識をもとに、(社)大阪自治体問題研究所として大阪府下の各自治体の発行した広報紙における財政情報の掲載実態について比較検討を行い、住民自治にとっての財政情報公開のあるべき姿を探ることとした。以下、この調査研究に携わった者として、私見も含め結果報告を行う。 II 広報紙の評価対象及び評価基準・方法 1. 評価の対象  一般的に各自治体の広報紙には、年間を通じて当初予算(予算案)の説明、決算の報告、年2回の財政状況の報告などが財政情報として掲載されている。今回の調査研究では、この内、当初予算の説明記事のみを評価対象とした。これは、一つには、予算説明は財政情報の中では、これから施策・事業が進められるという点で住民が最も関心を持つものであるということ。二つには、決算報告や財政状況報告に関する広報紙の掲載情報量が予算に比べて全体として少なく、各自治体間に大きな差違がなかったことによる。  具体的な評価対象は、大阪府を除く府下全自治体(44市町村)が発行した97年度当初予算について掲載された広報紙とした。広報紙の入手方法については、当初、大阪自治体問題研究所名で「予算・決算関係の広報紙の提供を」という依頼文書を各自治体の財政担当に発送し、返送を期待した。しかしながら、結果的に返送されたのは22市町村にとどまった。そこで、あくまで全市町村を対象とするため5市町村については直接市役所を訪問入手し、さらに残る17市町村については、収集する時間的制約等のため大阪府立中之島図書館にて閲覧を行うこととした。ただし、首長選挙のために97年度当初予算を骨格予算として組んでいる羽曳野市と島本町については96年度当初予算に係わる広報紙を対象とした。また、対象とした広報紙は、各自治体が全世帯への配布を前提として毎月1回以上発行し、現実に概ね全世帯に個別に配布されているものとした。 2. 評価の基準、方法  評価基準の基本は、「住民から見て、自分の支払った税金がどのように使われているかが、リアルにわかり、さらに詳しく知りたいときの水先案内となりうるか」という点とした。  評価の方法は、それぞれの広報紙に、@どのような情報が、どういうかたちで掲載されているかを丹念に書き出し、これを項目毎にまとめ(表1 予算に関する財政情報の広報紙における公開状況)、Aその内のいくつかの項目についてそれぞれの評価基準に従って3段階の評価を行い、Bこれを広報紙別に集計し、その結果をもとに最終的に3段階の総合的評価(表2 予算記事掲載紙につての評価付け表)を行った。 III 広報紙の評価結果 1. 広報紙の特徴  対象とした44市町村の広報紙から得られた特徴について、表1に沿って順次見ていく。まずサイズについては、タブロイド版が20団体、A4サイズが23団体、B5サイズが1団体。また平均ページ数は、タブロイド版で8.6ページ、A4・B5サイズが25.3ページ。発行回数は1ヶ月当たり、1回が30団体、2回が13団体、3回が1団体である。  また、日本広報協会大阪府支部などが行った1996年度の「広報関係実態調査結果(概要)」2によると、広報紙の配布方法は自治会等に依頼が50.0%と半数あり、新聞折込や業者委託と併用しているところも含めると自治会等の利用は70.5%となり、自治会等に負うところが大きい。なお、業者委託のみは15.9%、折込のみは6.8%となっている。また、編集過程において、業者等へ委託しているのは40.9%で、その内容は、企画・編集、取材、原稿作成、レイアウト、イラスト、印刷等である。編集におけるDTP等コンピューターの使用については、31.8%である。  さらに、広報紙が読まれているかどうかの点については、豊中市が1992年に行った「地域情報化に関する市民アンケート調査」の結果報告書3によると、「地域の情報をふだんどのような方法で入手しているか」との質問に対し、59.4%の回答者が「行政などの広報紙」と答え、2位「新聞」44.2%、3位「自治会等の回覧など」36.2%を引き離し1位となっている。また、大阪市の行った1990年の「市政モニター調査報告によると、市政についての情報源としては「市政だより(大阪市の広報誌)」が90%、次いで一般新聞が87%、テレビの報道が71%となっている。また「市政だより」をどの程度読んでいるかについては、「全体をくまなく」が47%、「興味のある記事だけ読む」が32%、「ざっと目を通す程度」が20%という状況である」4。このことから、広報紙は住民にとって地域情報収集の手段としての重要な役割を果たしているものと考えられる。 2. 予算記事掲載広報紙には、何が掲載されているか 1) 予算記事掲載の広報紙の特徴  予算記事掲載紙の発行年月日については、3月発行分が3団体、4月分が31団体、5月分が8団体、3月分と4月分の両方にが1団体(大阪市)である。また、全く掲載していないのが1団体(田尻町)となっている。なお、3月発行の広報紙への掲載は、全て予算案である。  予算記事の面積は、A4サイズへ換算して平均2.9ページで、最も大きいのが吹田市で11ページ、次が大阪狭山市で6ページ、最も小さいのは大東市の0.4ページ、次が高石市の0.8ページとなっており、記事面積にして実に30倍近い大きな開きがある。  また、予算について掲載している当該広報紙の全紙面に占める予算記事の割合は、平均14.6%で、最も大きいのが茨木市の50.0%、次が吹田市の45.8%であり、最も小さいのは藤井寺市の2.3%、次が大東市の2.5%である。また年間の総紙面数に占める割合は、平均1.0%で、最も大きいのが茨木市の2.8%、次が大阪市の2.6%、最も小さいのは大東市の0.14%、次が泉佐野市の0.26%である。 2) 予算記事の内容  予算記事全体の大見出であるが、「福祉施策を充実し、安全でより質の高いまちづくりを(豊中市)」「思いやりとぬくもりのあるまちづくりに重点配分(河内長野市)」などと予算の特徴や行政の方向性を示すキャッチフレーズもしくはスローガン的なものを記すのが23紙。内、「行政改革元年予算と位置づけ、事務事業の見直しを(寝屋川市)」と行財政改革を打ち出したものが2紙。また「平成8年度予算概要」や予算額そのものなどを大見出とするものが20紙となっている。  予算記事の掲載根拠または掲載に至った経過については、市議会で可決等が26紙。「予算がまとまる」等が5紙、記載していないのが12紙である。  予算編成方針や予算概要について記載しているのは34紙。内、実質収支や経常収支比率などを示して説明している池田市や、歳入・歳出の内訳の前年度比較とその推移要因等について説明している吹田市など、比較的詳しく記載しているのは5紙である。  施政方針について、予算記事掲載号に一緒に掲載しているのが25紙、内、施政方針の一部として予算の説明を掲載しているのが10紙、また予算記事の具体的な事業と施政方針の関連部分をレイアウト的に上手く結び付けているのが吹田市。全く別の号に掲載しているのは14紙。  次に一般会計について見てみる。まず、市町村税・国支出金・府支出金・地方交付税・市町村債など歳入の内訳については36紙が掲載し、1紙を除いてグラフ(円・半円グラフ27紙、棒グラフ7紙、円と棒グラフ1紙。予算額と構成比の両方26紙、予算額のみ6紙、構成比のみ3紙、税収内訳も掲載が9紙。自主財源と依存財源がわかるようにしてあるのが8紙)で表現。また内訳について説明があるのは11紙、前年度と比較し予算額・伸び額・伸び率など掲載しているのは13紙、住民1人当たりの歳入額が示されているのはごく一部も含めて8紙(グラフによる表示1紙)である。  歳出の内訳については、民生費・土木費・教育費・総務費・公債費など目的別歳出分類については38紙が掲載し、3紙を除いてグラフ(円・半円グラフ26紙、棒グラフ8紙、絵グラフ1紙。予算額と構成比の両方27紙、予算額のみ6紙、構成比のみ2紙)で表現。また内訳について説明があるのは6紙、前年度と比較し予算額・伸び額・伸び率など掲載しているのは11紙である。人件費・物件費・扶助費・投資的経費など性質別歳出分類については目的別に比して掲載紙ははるかに少なく7紙のみで、5紙がグラフ(円・半円グラフ4紙、棒グラフ1紙、予算額と構成比の両方4紙、構成比のみ1紙)で表現。また内訳について説明があるのは2紙のみ、前年度と比較し予算額・伸び額・伸び率など掲載しているのも5紙のみである。住民1人当たりの歳出額が示されているのはごく一部も含めて14紙(内、目的別が12紙。グラフによる表示2紙。図2)である。なお、目的別と性質別の両方を掲載してある広報紙については、「同じ歳出を別の角度から分類したものである」との趣旨の説明がなく、一般の住民にとってわかりにくいものとなっている。  また、歳入内訳、目的別歳出内訳、性質別歳出内訳を全てグラフ表示しているのは、吹田市、寝屋川市(図1)、四条畷市、柏原市、泉大津市の4紙である。逆に、グラフだけでなく予算概要の中も含めて内訳を全く記載していないのが、摂津市、大東市、東大阪市、藤井寺市、堺市、高石市の6紙である。たしかに、支出金や地方債、民生費や土木費、人件費や物件費などがそれぞれいくらと予算額を示されても一般の住民にはわかりづらいものではある。しかし、こうした指標は予算の最も基礎的なものであり、どこから予算がやってきて、どこへ予算が使われているかを知る上で必要なものであり、必ず掲載すべきでものであろう。行政は、「行政用語は住民にはどうせわからない」という態度をとるのではなく、むしろ、八尾市や大阪狭山市などが掲載しているような住民の理解を助けるよう「地方債とは何か、土木費とは何か」など説明文をつけるべきである。  歳出予算の詳細である施策や事業の説明については、ほとんどは主要なもののみではあるが大東市を除く43紙が掲載している。これらの施策や事業をわかりやすく分類しているのは39紙で、施政方針や総合計画に基づく政策別が35紙、歳出の目的別が4紙、平均分類数は5.9である。また、分類毎の予算額表示があるのは能勢町、八尾市、羽曳野市の3紙。施策や事業毎に予算額表示があるのは32紙(平均33項目)。その内、「障害者世帯への配食サービス創設 59万円」「女性弁護士による労働相談など 172万円」「外国人のためのガイドパンフレット作成 204万円」「(仮称)秋山信子展の開催 600万円」「地域防災計画の修正 1239万円」「千里山佐井寺線道路新設事業 3300万円」「寺ヶ池公園の整備 1億8000万円」など具体的な事業について個別に予算額を示しているのは10紙(河内長野市が100項目で最高数、次が吹田市の81項目)で、他は「環境対策」「福祉」「学校教育」など大きなくくり毎に予算額を表示している。また羽曳野市は主要施策・事業だけでなく一般・特別会計のほとんど全ての事業を「道路交通網の整備」「都市基盤の整備」「高齢者福祉」「中学生のために」など大きなくくりの50項目に分類し、項目毎の予算額を表示し、さらに市民1人当たりの予算額も掲載している。施策や事業内容については事業名のみが8紙、説明があるのは17紙(特に吹田市<図6>、富田林市、河内長野市<図7>、千早赤阪村<図3>、貝塚市は詳しい説明あり)である。住民が予算について最も知りたいのは、どのような施策や事業が、どこで、どんな目的で行われ、いくら予算を使うのかである。また詳しく載せることによって、住民の関心も高まり、行政への住民参加も進むと考えられる。紙面の都合もあるであろうが、可能な限り具体的に、また詳細に記すべきである。  次に特別会計・企業会計であるが、全く触れていないのが東大阪市、泉南市、田尻町の3紙、会計別予算額表(図4)を掲載しているのは36紙(グラフによる表示含む)。内、対前年度伸び率を表示しているのは24紙、また企業会計で資本的収支・収益的収支に触れているのは4紙のみである。予算内容について何らかの説明がなされているのは、大阪狭山市、河内長野市、熊取町など5紙のみ。以上のように、特別会計・企業会計は一般会計に比べてかなり扱いが小さく、内容も大雑把なものとなっている。しかし、特別会計の予算額は、一般会計に比して決して小さいものではなく、例えば全く掲載していない東大阪市では、一般会計1,632億円に対して特別・企業会計は1,556億円、泉南市では182億円に対し162億円と一般会計とほぼ同額になっている。またその内訳を見れば、下水道事業や老人保健、国民健康保険の各特別会計がほぼ全ての自治体において大きな部分を占めており、住民生活にとって身近であり重要な予算である。これだけの予算額を持ち、住民生活に多大な影響を与える会計について何ら説明しないのでは住民自治とはいえない。  予算に係わる用語の解説は、11紙(大阪狭山市の例 図2・図5)が簡単なものも含め何らかの形で行っているが、一般住民から見た場合の行政用語の難解さ、親しみの無さから見て、その扱いは極めて不十分である。  施策・事業内容を示す写真・図等については29紙が掲載しているが、中には何の写真か説明の付いていないものもある。  また、レイアウト等の工夫については、豊中市や吹田市、河内長野市、大阪狭山市など読みやすく、理解しやすいように良く考えられているものがある一方、詰め込み過ぎや、記事の流れのわかりにくいものも多い。また、大阪市は予算案(1997/3号)と予算(1997/4号)について2回にわたって掲載していることは評価できるが、予算記事には、予算案記事に掲載されていた歳出・歳入の内訳などが掲載されていないため、結果的に予算を知ろうというときには二つの号を合わせて見ないと、全体像を理解しにくいものとなっている。  掲載内容の問合せ先については、財政課と明記してあるのは寝屋川市、枚方市、八尾市、堺市の4紙のみである。広報紙をつくる職員にとっては、「予算のことは財政課」は、当たり前のことかも知れないが、書かないのは一般の住民に対して不親切である。また、「予算書は行政情報コーナーで閲覧できます」等の案内は池田市、八尾市の2紙のみである。府下ではこの2市を含め14自治体が情報公開条例を制定し、中には吹田市のように情報コーナーを設け、財政関係書類を閲覧できるようにしている自治体もいくつかある。しかし、そのことを明記していないのもやはり不親切である。 3. 総合的に評価してみると  以上見てきた掲載事項について、それぞれ3段階(a、b、c)の評価基準を設定し、各広報紙について各項目毎の評価を行い、これらの結果をもとに総合的に判断し、掲載記事全体をA、B、Cの3段階で評価した。評価基準及び結果は表2の通りである。全ての項目がA評価に値する広報紙はなく、44広報紙の中で総合的に見て比較的良いと思われるA評価は、吹田市と河内長野市の2紙(5.5%)のみとなった。B評価は豊中市、寝屋川市、羽曳野市、岸和田市、河南町、熊取町など16紙(36.4%)、C評価は過半数を超え池田市、摂津市、守口市、東大阪市、松原市、堺市、泉佐野市、大阪市、島本町、忠岡町など25紙(56.8%)となった。なお、田尻町については、広報紙に予算記事が見当たらないため評価の対象外とした。  A評価となった2紙について簡単に紹介すると、吹田市(図6)については、@具体的な施策・事業と、それに関連する施政方針部分とをレイアウト的に上手く結び付けて掲載している A歳入・歳出(目的別・性質別)の内訳について対前年伸び率も含めグラフでわかりやすく表示している B歳入と歳出(目的別)の内訳について予算概要で比較的詳しく解説している C事業内容を説明する写真が効果的であり、またレイアウトも読みやすいように良く考えられている D特に評価できるのは、81件の施策や事業が名称だけでなく予算額を伴ってその内容が具体的に記載されている点である。  また、河内長野市(図7)については、@歳入・歳出(目的別)の内訳についてグラフでわかりやすく表示している A事業内容を説明する写真が効果的であり、レイアウトも読みやすいように良く考えられている Bさらに評価できるのは、100件の施策や事業を総合計画にしたがって7つに分類し、予算額を伴って掲載した上、その内8事業については写真をつけて詳しく説明している点である。 IV なぜ、このような格差が生じているのか  広報紙に掲載された予算記事、すなわち財政情報は、これまで述べてきたように自治体間でその内容に大きな格差が生じている。特に、今回検討した大阪府下44自治体の広報紙の内、過半数を超える25自治体の広報誌がC評価となったのは、財政情報公開における広報紙の位置づけの問題だけでなく、財政情報の公開の必要性そのものへの行政側の認識の不充分さの表われだといえる。こうした掲載実態からは、住民自治を進めるために「住民に自治体の財政状況を知ってもらおう、知らせていこう」という行政の積極的な姿勢は全く見えてこない。  では、このような格差が生じた原因はどこにあるのか。これを検討するために、広報紙の評価と自治体の財政規模や、広報紙全体の情報量などの間に何らかの関係があるのか検討してみることにする。 1. 自治体の規模と財政情報  自治体の規模と事務執行能力は一般に比例するものとされ、地方分権推進委員会第2次勧告の中でも市町村の行政能力向上に向けた自治体の合併推進が述べられている。では、財政情報を住民にわかりやすく知らせるという事務執行能力についても、自治体の規模が大きいほど豊かだといえるのであろうか。この点を確かめるため自治体の規模を示す当初予算額と、広報紙における予算記事の評価との関連を見たのが右記のグラフ(図8)である。  このグラフからわかるように、当初予算額と広報紙への評価の間に、明確な関連は見られない。財政情報を住民にわかりやすく知らせるという事務執行能力は、自治体の規模が大きいほど増大するとはいえないのである。むしろ、財政規模のベスト3である大阪市、堺市、東大阪市の広報紙は、印刷経費のかかるカラー印刷で美しい紙面となってはいるが、その内容においては全てCランクである。このことは自治体の規模が大きくなることが、地方自治、特に住民自治にとって必ずしも良い結果を生むものではないことを示しているのではないだろうか。 2. 広報紙全体の情報量と財政情報  さて、予算記事の評価が低くなる要因の一つは記事の量、すなわち掲載ページ数が少ないことである。予算掲載記事の面積をA4サイズに換算(ページ数をタブロイドは2倍、B5サイズは0.7倍する)した場合、A評価の広報誌が平均8.3ページであるのに対し、B評価は平均3.2ページ、C評価は平均2.4ページに過ぎない。であるなら「広報紙のページ数が少ないために、予算に関する記事を掲載するページ数が少なく、結果として内容の乏しい記事になっている」ということになるのだろうか。次にこの点について検討する。各自治体が1年間に発行する広報紙のページ数を同様にA4サイズに換算し、予算記事の評価との関連を見たのが次のグラフ(図9)である。  このグラフからわかるように、年間ページ数(広報紙の年間総情報量)が多いほど、予算記事の評価が高くなるとはいえず、この仮定は成立しない。すなわち、年間のページ数がどれだけあるかよりも、どれだけ予算記事にページ数を割くかが、問題である。 3. 情報公開条例と財政情報  1997年5月末現在、大阪府下で情報公開条例を制定しているのは13市1町である。「情報公開制度を実施している自治体は、情報提供についても先進的であり、予算記事の評価も高い」とはたしていえるのだろうか。情報公開条例制定市の広報紙を評価別に分類するとA評価が吹田市、河内長野市の2紙、B評価が豊中市、八尾市、寝屋川市の3紙、C評価が大阪市、堺市、高槻市、茨木市、大東市、箕面市、池田市、摂津市、島本町の9紙となっている。A評価を受けた2市はどちらも情報公開を制度化しているが、一方、C評価も制度化自治体14の内9自治体と多く、必ずしも情報公開と予算記事の評価とに関連があるとはいえない。  以上のように、自治体の規模、広報紙の総情報量、情報公開条例の制定の有無と、予算記事への評価とは何ら関係がないことがわかった。各自治体の広報紙の評価に大きな差が生じた原因はもっと別なところにあるようである。すなわち、広報紙そのものの編集体制と編集技能、広報担当職員・財政担当職員の財政情報の公開に対する意識、どちらが記事を作るのかといった財政担当課と広報担当課の関係、さらには首長以下の行政そのものの住民自治に対する方向性・政治的傾向などが総合的に働いているのではないだろうか。こうした要因については、今後、行政に対するヒヤリング調査などを行い具体的に明らかにしていく必要がある。 V 総合的な情報公開に向けた情報政策の確立を 1. 財政情報の広報紙での公開の根拠  これまで見てきたように、大阪府下のほとんど全ての自治体が、程度に差はあるが財政情報を何らかのかたちで、広報紙に掲載している。そこで、次に広報紙に財政情報を掲載する根拠はどこにあるのか見ていくことにする。  まず、地方自治法は、予算ついては第219条第2項で「普通地方公共団体の長は、……予算の送付を受けた場合において……その要領を住民に公表しなければならない。」、また決算については第233条第5項で「普通地方公共団体の長は、決算を……その要領を住民に公表しなければならない。」と、それぞれ公表の義務を定めている。ただし、何をどういった方法で公表するかなど具体的な規定・基準はなく、この規定が広報紙への予算説明、決算報告の掲載を直接義務づけているとはいえない。  また、財政状況については、第243条の3第1項で「普通地方公共団体の長は、条例の定めるところにより、毎年2回以上歳入歳出予算の執行状況並びに財産、地方債及び一時借入金の現在高その他財政に関する事項を住民に公表しなければならない。」と公表を義務づけている。この規定を受け各自治体は「財政事情の作成及び公表に関する」条例等を制定している。同条例等による住民への公表の手段については、自治体庁舎の玄関などに設けた掲示板への掲示による公表を規定している自治体と、公報や広報紙による公表を規定している自治体とに分かれる。  前者の例として、「和泉市財政状況の公表に関する条例」は、第4条で「「財政状況」の公表は、掲示場または公衆の見易い場所にこれを掲示するものとする。」と規定している。また「松原市財政事情の作成及び公表に関する条例」は、第4条で「松原市公告式条例の定める方法により行なう」と規定している。池田市、泉大津市、柏原市、富田林市、吹田市、岸和田市、東大阪市、藤井寺市などが同様の掲示板方式をとっている。もっともこうした規定の自治体であっても、ほとんどが広報紙への掲載を行っている。  後者としては、「堺市財政状況説明に関する条例」は第3条で「説明書は広報堺に搭載しなければならない。」と規定している。門真市、河内長野市、泉佐野市、四条畷市、大東市などが同様の広報方式をとっている。また、「寝屋川市財政状況の公表に関する条例」は第4条で「財政状況の公表は市公報によりこれを行なう。」と規定しており、枚方市や大阪市などが同様の公報方式をとっている。なお、広報とは自治体などが広く住民に知らせるために行うものであり、広報紙は基本的に全世帯に配布されるが、公報とは公の機関が公示のために発行する機関紙であり、全世帯を対象とはせずその発行部数は少ない。  また、財政状況の公表に関する対象に、寝屋川市のように「12月に行なう財政状況の公表については、……前年度の決算の状況を明らかにするものとする」(第3条第2項)と決算を含める自治体や、羽曳野市のようにさらに予算をも含める自治体もある。  以上のように、公表する方法に違いはあっても、こうした規定は行政に対し、住民への財政情報を公表する義務を負わせたものであり、後にあらためて述べる情報公表義務制度に相当するものである。  今後、地方自治法のこうした規定を生かし、予算・決算・財政状況の公表にあたって公開しなければならない情報のより一層の拡大・充実に向けた具体的な規定や、住民に知らせるという点で全く効果のない掲示板ではなく広報紙への掲載の義務付けや、将来的にはインターネットなどによる公表など、条例で規定させていくことも必要ではないだろうか。 2. 住民意識の流れと財政情報の公開  これまで自治体の財政情報が住民自治にとって最も重要な情報の一つであるとしてきたが、具体的にはどうであろうか。次にあらためて、住民が自治体の財政情報にどのように関心を持ち、係わってくるのか、その意識の流れについて具体例を想定し検討してみることにする。  まず、広報紙から出発した場合を考えてみる。例えば、ある住民が自宅に配布された広報紙で予算の概要をたまたま見たとする。読んでみると、今年度の予算として土木費に○○億円使われることがわかる。その内訳を見ると道路関係費に○○億円、さらに具体的に△△道路に改良費として○○千万円使われることを知る。「本当にこの工事は必要なのか、何のため、どうしてこんなにお金がかかるのか」などと疑問を持つ。そこから自治体の財政への関心が高まる可能性が出てくる。  逆に、身近な問題から出発した場合を考える。例えば、ある住民の家で年寄りが倒れ、介護のためにヘルパーが必要になったとする。早速、福祉課に相談に行くと、時間や回数など希望に合わない。「なぜできないの」と聞くと、担当者は「市に金がない」と返答する。「本当に市に金はないのか。福祉予算はどうなっているのか。市全体の予算配分はどうなっているのか」と疑問を持つ。そこから、市の財政状況はどうなっているのか知りたくなり、自治体の財政への関心が高まる可能性が出てくる。  こうした自治体財政への関心の高まりから、中には自治体の情報コーナーや、図書館、財政課へ関係資料の閲覧に行ったり、疑問点を担当者に問い合わせたり、情報公開を請求したりする場合も出でくるであろう。さらに、得られた情報をもとに地方自治体の主人公として(被)選挙権、直接請求権、請願権などの行使や、住民運動などを積極的に進めていくこともあるであろう。  以上のような住民の意識の流れに対して、行政は住民が満足する情報提供を行っているのか考察する必要がある。そこで、次に住民が財政情報にアクセスする場合の行政の対応を考えてみる。 3. 情報の取得難易度による情報取得方法の分類  前述の「住民の意識の流れ」を踏まえ、財政情報の取得(アクセス)の方法を住民側から見た場合の難易度により分類すると図10のようになると考えられる。  なお、図10で示したTからWの各段階は、以下の通りである。  T 全世帯を対象に配布(伝達)され、特別な努力なしに情報を得られるもの     広報紙、テレビ(CATV)やラジオ放送の広報番組など  U 図書館や市役所情報コーナー、関係課などで、名前や見たい理由などを特に明らかにしなくても情報が得られるもの     予算書、予算の概要書、決算報告書、主要施策の成果の説明書、監査意見書、統計書など  V 情報公開(情報開示請求)制度などを使えば、情報が得られる可能性のあるもの     財政運営計画書、交付税算出資料、起債計画書、補助金申請書、予算執行関係書類など  W 情報の公開がなされないもの     意志形成過程関係情報、国その他の機関との協力関係情報、プライバシーに関するものなど  ただし、各段階で例示してある資料・書類の公開については、各自治体毎に対応に違いがあると思われる。ある自治体では閲覧できる資料が、別の自治体では全く公開されていない場合もありうる。あくまでも推定による分類である。これまで検討したように予算に関して広報紙に掲載された内容が自治体毎に大きく違ったことから、こうした差違が生じるであろうことは容易に想像できる。  また、ここで注意しなければならないのは、詳細な情報ほど、すなわちアクセスが困難な情報ほど、住民のその情報に対する理解が困難だとは、一概にいえない点である。むしろ、逆に情報の中身が具体的になるためにわかりやすくなる場合もある。行政内部では「詳しいことを説明しても、どうせ住民にはわからない。概要だけで良い。」という声がよく聞こえる。しかし、どこに、どれだけ、何のためにお金を使うのかという詳細な情報の方が、その具体性のために住民の関心・理解を得やすい場合もあることに、行政は注意すべきである。  以上の点を踏まえ、住民が満足する情報提供を行政が行っていく上で必要なことを列記すると、  1. 行政は、住民の思考の流れの各段階に応じた情報を提供しているのか。また、提供するための窓口や職員などシステムの整備が図られているのか。  2. 行政は、住民が、財政に関する専門的な用語や、複雑なシステムを理解できるようにする何らかの方策を持っているのか。  3. 行政は、住民の思考の流れを踏まえ、総合的な情報政策の一環として、広報紙による財政情報の提供を行っているのか。 4. 広義の情報公開制度を  現在、政府が制度化を検討している「情報公開法」や、自治体が制度化している「情報公開条例」は、一部の例外を除き前述の分類ではV(以下「情報開示請求制度」とする)に相当する。しかし、情報公開を行政が保有する情報を住民が何らかの方法で取得する制度だと、広義で考えれば、T〜V全てを情報公開と見なすことができるのではないか。逆にいえば、Vの情報開示請求制度だけが整い、T及びUの制度が不充分であれば、住民は財政状況全体を理解することは困難となるのではないだろうか。すなわち、住民は、情報開示請求制度によつて、昨今問題となっている交際費や食料費などの使途については関係書類を請求できるので、これを明らかすることはできる。しかし、行政全体としての予算配分については、情報開示請求制度によって個々の書類を請求しても、全体像を把握することが困難という事態が生じるのであろう。これでは、住民自治を進めるための「情報公開」とはいえない。  情報公開を情報開示請求制度の狭い意味で捉えることなく広報紙などの情報提供も含めた広義な意味で捉え、総合的に発展させることが必要ではないだろうか。こうした点について、西尾 勝は、情報公開の体系を表3のようにまとめた上で、「情報提供施策と情報公開制度、情報公表義務制度と情報開示請求制度、特定情報開示請求制度と一般情報開示請求制度は、それぞれ独自の機能を分担しながら、互いに補完し補強しあっているのであって、情報公開を推進するためには、それぞれをバランスよく発展させることが肝要」5としている。  こうした広義の情報公開として総合的な情報公開政策を規定している条例として「東京都公文書の開示等に関する条例」6がある。同条例はその目的として第1条で「情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定め、もって都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に促した都政を推進することを目的とする。」と定めている。そして第16条で都の責務として、開示請求制度の他に、情報提供施策、情報公表施策の充実を図り、情報公開の総合的な推進に努めること。また、情報収集・提供機能強化、有機的連携の確保、情報の有効活用のための情報管理体制の整備に努めることを定めている。さらに情報提供施策の拡充について第17条で、また第18条で情報の公表制度の拡充等を規定している7。  東京都の条例の様に、総合的な情報公開とはいかないが、大東市も情報公開条例の第15条で「実施機関は市民が必要とする情報の把握に努め、市政に対する正確でわかりやすい情報を市民が容易に利用できるよう、情報提供施策の拡充に努めなければならない。」と情報提供施策の拡充への努力規定を設けている。池田市の情報公開条例にも同様の規定が存在する。ただ、前述したように大東市の広報紙における予算説明記事の貧困さから考えれば、同条文は、かなり現実とかけ離れたものとなっている。大東市の情報公開条例は97年3月に公布され同年10月より施行されることとなっており、今後、この情報提供施策の拡充の規定を空文にしないよう行政に格段の努力が求められる。  また、日本の情報公開条例の制定に強い影響を与えてきたアメリカの情報自由法(the Freedom of Information Act FOIAと略称される)は、情報開示請求制度とともに、政府機関に公表義務及び自動公開義務を定め、広義の情報公開としての性格を有している。すなわち、政府機関の公表義務として、「公衆の指針のために、次の事項を項目別に記述し、かつ連邦公示録にその都度公告しなければならない。」として、中央及び地方組織等の所在地、各行政機関の機能を方向づけ決定づける一般的な方針、手続に関する規則、法律の授権によって採択された一般的に適用できる実体的規則、及びこれらの事項の集成、改正または廃止などをあげている(第552条(a)(1))。そして、政府機関の自動公開義務として、「次に掲げる次項を公衆の閲覧及び複写に供しなければならない。」として、事件の裁決において示された命令及び最終意見、行政機関が採択した連邦公示録に公告していない政策声明及び解釈、公衆の成員の利害にかかわる職員用手引及び職員への命令をあげている(第552条(a)(2)) 8。  今後、各自治体は情報公開を情報開示請求制度の狭い意味で捉えることなく、住民が必要とする情報の積極的な提供や、行政情報コーナーや公文書館の設置なども含めた総合的な情報公開に向け、住民自治の一層の促進のための情報政策の立案、実施を行っていく必要があるであろう。 5. 情報提供の方法を考える  本稿では情報公開の手段として広報紙を扱ってきたが、昨今のパソコンやインターネットなどの機器や情報通信システムの急速な発展、普及を踏まえて、今後の情報提供のあり方についても考えていく必要がある。今回の調査研究で対象とした予算説明や、また決算報告、財政状況報告など数字を扱った情報の提供については、これまでの広報紙など印刷物によるよりもパソコンでそのまま使えるような媒体、すなわちフロッピーディスクやコンピューターデータ記録用読取専用コンパクトディスク(CD−ROM)等によるディジタル情報での提供の方がはるかに扱いやすい。経年比較や他の自治体との比較をする場合、パソコン上で表計算ソフトを使えば、これまでの紙と鉛筆、電卓よりもはるかに早く正確にできる。また、予算説明や決算報告において全ての施策、事業について詳細に広報紙に掲載することは紙面数からいって不可能であるが、これもフロッピーディスクやCD−ROMで提供すれば実現可能である。フロッピーやCD−ROMをパソコンに挿入し検索ソフトで関心のある事項に関連する施策や事業について検索をかければ、たちどころに必要な情報を手に入れることもできるのである。  もちろん、広報紙の配布をやめ、全てこのやり方をということではなく、広報紙は引き続きその内容の向上に努めるとともに、より詳細な情報については、必要な住民が請求すれば行政情報コーナーなどで実費でフロッピーディスクやCD−ROMの形態で頒布するというシステムにすれば良いのである。中身は異なるが、すでに政府機関の方では、環境、経済、中小企業、犯罪、防災、防衛の各白書をCD−ROM化し、それぞれ1万円弱で頒布しており、今後自治体においても実現に向けた検討が必要であろう。  さらに、最近、発展・普及の著しいインターネットによる情報の提供についても研究する必要がある。例えば、アメリカのカリフォルニア州は、ホームページ(http://www.dof.ca.gov/html/bud_docs/bud_link.htm)で州の予算書を提供しており、何人であっても、アメリカに居ようが、日本に居ようが関係なく、ただパソコンの画面をクリックするだけで、ダウンロード、すなわち手元のパソコンのハードディスク上に予算書を手に入れることができるようになっている。  情報公開の先進国であるアメリカでは、政府記録の電子化の進行への対応として、情報自由法の改正である電子的情報自由法(the Electronic Freedom of Information Amendments of 1966 EFOIAと略称する)が1996年10月に制定された。同法は、公開の対象となる記録についての定義を置き、電子的記録も含むことを明らかにした。また、公衆の閲覧複写に供しなければならない記録であって1996年11月1日以降に作成されたものについては、当該日から一年以内に、インターネット等のコンピューター通信の方法によっても入手しうるようにしなければならないと定めている。さらに、開示請求による情報の開示にあたっては、請求者が指定した形態で開示することを義務づけている。すなわち、A機種のパソコンで作成された記録を請求者がB機種のパソコンで利用可能な形態にと指定すれば、複製が容易になしうる場合は行政機関は指示どおりの形態で複製し開示しなければならない。もしインターネットで入手できる形態を指定されれば、行政機関はその指定どおりにしなければならないわけであるから、地理的限界を超えて、情報を容易に入手しうるようになる。この改正は、政府の情報は容易に入手可能であるのみならず、容易に利用可能なものであるべきという哲学にも裏打ちされている。電子的記録の場合、コンピューターを用いれば数秒で処理しうる作業が、紙の記録であるため、作業に数年かかるということはありうることである9。  現在、日本でも多くの自治体がインターネット上にホームページを開設している10。しかし、その内容は、自治体概要や首長あいさつ、観光・イベント・物産情報など市政要覧や広報紙の域を脱していない11。こちらの分野でも政府機関が先行しており、各省庁のホームページでは審議会の答申や記者会見資料など行政資料の要約や全文の掲示を行っている。また、各種統計については、まだごく一部ではあるが経済企画庁や総務庁統計局、厚生省、通産省などでは表計算ソフトでそのまま使えるデータ形式でのホームページからのダウンロードサービスを始めている。今後、自治体においても、ホームページを従来の見ても役に立たないようなカタログ的な代物から本格的な行政情報の提供媒体に変えていくべきである。まだ日本ではインターネットを利用している人は少ないが、今後増加が多いに見込まれる12。また、ホームページを開設するだけならそれほど経費がかかるものではなく、技術的な困難さもさほど大きくはない。さらに既に多くの自治体で行政文書や統計の作成にあたってパソコンが多用され、ホームページに掲載するために改めてデジタル情報に変更する必要も今後急激に減っていくことが予想される。インターネットによる情報提供についても近い将来の実施に向け自治体として多いに検討していく必要がある。  もちろん、こうした情報公開の電子化を進めていくにあたっては、パソコンなどの機器を所有していない、またインターネットを利用できない住民に対し、情報弱者をつくらないために、市役所ロビーや図書館、公民館などの公的施設にパソコンなどの機器を設置しインターネットに接続し、容易に利用できるようにするとともに、その操作方法の習得について支援を行うようなシステムが必要である。 VI おわりに  本来、予算、決算など自治体の財政情報は、自治体運営に関する最も基本的な情報であり、住民自治の観点からすれば、行政をコントロールする住民は当然、知っているべきである。住民にとって財政情報を知ることは権利であり、行政にとって知らせることは義務である。  もちろん、だからといってプライバシーに係わる部分や行政執行上公開できない部分を除いたとしても、全てを広報紙に載せることは不可能である。掲載量を増やせば広報紙の印刷や配布コスト上昇の問題も生じる。また、詳しければそれでいいということではない。どうわかりやすくするかという点も重要である。掲載内容・方法のあるべき姿については、引き続き具体的に検討すべきであろうが、当面、行政は、表2の全ての項目についてA評価を満たす広報紙の発行をめざす必要があるだろう。そのためには、自治体の広報担当者や財政担当者が、情報公開の意義・必要性を認識し、他の自治体の広報紙との比較検討を行うなど具体的に記事内容の改善を進めるとともに、住民も積極的に行政に対して、広報紙の内容改善に向けた動きを具体的につくっていくことが必要である。  また、今回は予算記事についてのみ比較検討をしたが、本来は決算報告、財政状況報告をはじめ公共料金の引き上げに関する記事なども含め、年間を通じて財政情報がどのように住民に公開されているのか比較検討すべきである。また、広報紙の編集・発行過程における問題点や、広報担当職員や財政担当職員の財政情報の公開に関する意識、さらには実際に住民がこれらの記事を見てどのような感想を持ち、また具体的な行動へとつながっているのかなどについても調査する必要がある。今後、そうした方向での調査研究が必要であろう。  最後に、地方自治を住民自治として進めるために必要なことを繰り返すなら、情報公開=情報開示請求制度と、狭く捉えるのではなく、広報紙の内容の充実をはじめ、図書館や公文書館・行政情報コーナーなどでの情報提供や、一定の情報の行政に対する公表義務づけの制度化なども含めた総合的な自治体情報政策の策定と実施である。 引用文献  1 「データ地方自治97」『住民と自治』自治体問題研究所編、通巻412号、1997/8/1、p61によると、1997年4月1日現在で要綱等も含めて、47都道府県237市23区76町12村の395自治体で情報公開条例が制定されている。  2 「平成8年度広報関係実態調査結果(概要)」による。調査対象 大阪府下44市町村、調査時点 1996年6月、回収率 100%、調査主体 日本広報協会大阪府支部・大阪府市長会・大阪府町村長会。また同調査結果によると、視覚障害者を対象とした「声の広報」が37団体、「点字広報」が17団体で実施されており府盲協等を通じて配布・貸出が行われているとのことである。財政情報についてはどういう扱いになっているのかについては、今後の調査研究課題である。また、広報紙の外国語版を発行している自治体はないとのことである。  3 「地域情報化に関する市民アンケート調査報告書」豊中市政策推進部情報政策課、1993/3、p88。同アンケートは豊中市政策推進部情報政策課が1992年8月に豊中市在住の16歳以上の市民3000人を住民基本台帳から無作為抽出し郵送留置郵送回収法により実施。有効回答率は57.2%。  4 名倉嘉史「大阪市の広報」『都市問題研究』、都市問題研究会編、通巻48-5号、1996/5、p126  5 西尾 勝「自治体における情報公開の推進を求めて」『地方自治体における情報公開に関する研究』財団法人地方自治協会、1983/5/1、p17  6 広義の情報公開としての「東京都公文書の開示等に関する条例」の解説については、堀部政男「自治体情報法」学陽書房、1994/10/10、p107以下が、また同条例全般の解説については、第2東京弁護士会「新版 情報公開ハンドブック」花伝社、1994/9/25が詳しい。  7「東京都公文書の開示等に関する条例」の内、本文で紹介した事項に関する条文は次の通り。   (目的)  第1条 この条例は、公文書の開示を請求する都民の権利を明らかにするとともに、情報公関の総合的な推進に関し必要な事項を定め、もって都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都数を推進することを目的とする   (情報公開の総合的な推進に関する都の責務)  第16条 都は、前章に定める公文書の開示及び公文書の任意的な開示のほか、情報提供施策及び情報公表施策の拡充を図り、都政に関する正確でわかりやすい情報を都民が迅速かつ容易に得られるよう、情報公開の総合的な推進に努めるものとする。  2 都は、情報収集機能及び情報提供機能の強化並びにこれらの機能の有機的連携の確保並びに実施機関相互間における情報の有功活用等を図るため、総合的な情報管理体制の整備に努めるものとする。  3 都は、情報公開の効果的推進を図るため、特別区及び市町村との協力及び連携に努めるものとする。   (情報提供施策の拡充)  第17条 実施機関は、報道機関への積極的な情報提供及び自主的広報手段の充実に努めるとともに、その管理する資料室等都政に関する情報を提供する施設を.一層都民の利用しやすいものにする等情報提供施策の拡充に努めるものとする。  2 実施機関は、効果的な情報提供を実施するため、広聴機能等情報収集機能を強化し、都民が必要とする情報を的確に把握するよう努めるものとする。   (情報の公表制度の拡充等)  第18条 都は、法令等により義務づけられた情報の公表制度のほか、都民に必要な都政に関する情報の公表制度の整備拡充に努めるものとする。  2 実施機関は、一般に周知する目的をもって作成した刊行物等について、その目録を作成し、毎年公表するものとする。  8 アメリカ情報自由法の和訳は、社団法人自由人権協会「情報公開法をつくろう」花伝社、1990/9/27、p111以下から引用。また、アメリカ情報自由法については、松井茂記「情報公開法」岩波書店、1996/4/22が詳しい。  9 アメリカ電子的情報自由法の項については、宇賀克也「アメリカの電子的自由法」『ジュリスト』通巻1100号、有斐閣、1996/11/1、p46以下を参照・要約した。  10 自治省の「地方公共団体におけるインターネットの利用に関する調査結果」によると、96年5月の調査時点で、222団体(287機関)がインターネットに接続しホームページを開いており、前回調査(96年1月、99団体)と比較すると2倍以上であり、急激に増加している。また、調査時点で、接続を予定しているものが523団体あり、今後も急激な増加が見込まれているとしている。  11 拙著「地方自治・住民自治から見たインターネット」『住民と自治』通巻409号、自治体問題研究所編、1997/5/1、p72以下参照。また、同著作で、インターネットの住民自治発展の上で果たすべき役割の可能性について述べるとともに、「情報格差を生まないために」として問題点を指摘した上で「住民としても行政に政策化を要求していくことが必要」としている。  12 日本インターネット協会編「インターネット白書 '97」、インプレス、1997/5/20、p56は、1997年の2月に日本インターネット協会(会長:石田晴久)が、アクセス メディア インターナショナル株式会社と共同で実施した全国規模のインターネット普及率調査に基づき日本のインターネット人口を571.8万人、自宅からの個人ユーザーは221.6万人と推測。また、松原市自治推進課が1997年2月に実施した市民アンケート(住民基本台帳より1000人を無作為抽出、回収率44.3%)によるとパソコン通信やインターネットの利用者は回答者の3.2%にすぎないが、「これからやる」との回答は30.6%となっている。