地方自治・住民自治から見たインターネット

 月刊誌「住民と自治」創刊400号記念懸賞論文入選作品

1997/5/1  黒田 充     

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ホームページ開設自治体の急増

 95年末のウィンドウズ95の発売を一つの契機として、パソコンが急速に普及している。国内での95年のパソコン出荷台数は520万台といわれ、96年には750万台、97年には1000万台と予想されている(1)。また、パソコンの普及とともに、昨年後半からインターネットへの関心が急激に高まり、一大ブームの観を呈している。インターネットの国内のユーザー数は正確にはわからないが、95年はざっと125万人と考えられ、96年には250万人、97年には500万人、98年には1000万人に達するとの期待もだされている(2)
 こうした爆発的なブームを背景としながら、ホームページの開設という形で、地方自治体のインターネット利用が急速に拡大している。ホームページは、インターネット利用者が情報を検索し取り出すためのメニュー画面のことで、団体でも個人でも誰でもインターネット上に開設できる。野村総合研究所による調査では、自治体が関与するホームページは,95年8月以降急増しており,96年5月15日現在,513自治体が延べ631のホームページを公開している(3)。また、自治省の「地方公共団体におけるインターネットの利用に関する調査結果」によると、96年5月の調査時点で、222団体(287機関)がインターネットに接続しホームページを開いており、前回調査(96年1月、99団体)と比較すると2倍以上であり、急激に増加している。また、調査時点で、接続を予定しているものが523団体あり、今後も急激な増加が見込まれているとしている。
 二つの調査に差があるのは、自治省と野村総研の調査での自治体ホームページとみなす基準に差があるためである。これは、ホームページの開設者が、自治体だけではなく、第三セクターであったり、民間の事業者や個人が自治体の協力を得て開設したり、県などが一括して県下の市町村のホームページを開設したりとバラバラなため、どこから自治体のホームページとするのかで数が変わってくるためである。また、開設者がバラバラなため、複数のホームページを持つ自治体もある。さらに、こうした調査では数に入っていないが、インターネットでは誰でも何の許可も必要とせずにホームページを開設できるので、全く個人的に開設されている自治体名を冠したホームページも数多くある。
 さて、こうした自治体ホームページの内容というと、これまでの行政から住民への一方通行の情報提供としての市勢要覧や広報紙などの域を脱していないといえる。先の野村総研による状況調査では、一番多いのが自治体概要・首長あいさつなどの一般情報で509件、次が観光・イベント・物産情報で498件、続いて都市計画・総合計画・開発プロジェクトなど計画情報で133件となっている(4)。また自治省調査では、観光・物産情報(接続機関の68%)、イベント情報(47%)、行政情報(40%)などとなっている。

インターネットとは

 インターネットは70年代に、米国防省が、核戦争時の指揮命令系統確保を目的に研究を進めたARPANETが始まりである。その後、全米科学財団により作られたNSFNETが、世界各国のコンピュータネットと相互接続をすすめ、90年代にはARPANETに代わって、インターネットを形作ることとなった。さらに、94年には、NSFNETも終結し、民営化され、大学や研究機関だけが使う状態から、一般の者でも利用できる現在のインターネットへと発展してきた。今では、インターネットに直接つながれているホストコンピュータは全世界で947万台に達している。1台にユーザーが10人いるとすると、世界中のユーザー数は9500万人ということになる(5)。こうした発展のおおきな力になったのは、インターネットの民主主義への貢献の可能性を信じ、労力を惜しまず、その成果物であるプログラムなど原則として公開してきた大学や研究所などに所属するボランティア達である。
 日本では、84年に大学間などをつなぐJUNETがスタートし、88年には現在のインターネットの基になったWIDEプロジェクトに引き継がれ(6)、94年頃からプロバイダーと呼ばれる一般のパソコンとインターネットとをつなぐ接続業者が続々と開業し(7)、今日の爆発的なブームへとつながっている。
 一般にホームページによる情報提供がインターネットの全てだと思われがちだか、これはWWW(World Wide Web)というインターネットのサービスの一つに過ぎない。ネット上で情報交換を行う郵便のような電子メールや、電子掲示板であるネットニュースをはじめ様々なサービスがあり、こうしたサービスの総体がインターネットである。そして、その最も大きな特徴は双方向性と平等性である。テレビや新聞などのマスコミが、情報の発信者と受信者を明確に区分する一方通行であるのに対し、インターネットは電子メールを使って一対一だけでなく、複数の相手に同時にメッセージを送ったり、ネットニュースを使ってメッセージを掲示したり、それほど専門的な知識や経費も必要とせずに情報を発信するホームページを開設できる。こうした情報発信に対する回答を受取ることも電子メールで簡単にでき、発信者と受信者がいつでも入れ替わることができる。こうした機能を誰でもが全世界の人たちに向かって簡単に使えるのがインターネットであり、ネット上ではすべての参加者が平等であるといえる。

情報提供・公開としてのインターネット

 自治体のこれまでの情報伝達手段といえば、月1回発行される広報紙が主なものである。予算的制約や配付手段の関係から、よほどのことでもない限り、臨時号は出ない。しかし、インターネットのホームページは、その内容をいつでも更新していくことが可能である。現に、大手新聞社は、ホームページに最新のニュースを掲示する競争を続け、リアルタイムで更新をしている。自治体として、そこまでできなくても、状況に応じて、ホームページの内容を更新していくことは可能である。
 現在主流の市勢要覧などのホームページでは、住民の日常生活には、さほど役立たない。内容の更新がなければ、一度見れば、二度と見に行くことは、ほとんどないであろう。行政として、今、住民はどんな情報を必要としているか正確につかみ、要求に応じてホームページを更新していくことが必要である。
 インターネットは阪神大震災時に、多くのボランティアの手によって、被災地情報を全世界に伝えるという点で、また安否情報を発信するという点で、画期的な役割を果たした。これらは罹災していない、いわゆる外の人たちに向かっての情報発信である。罹災した人たち、内へ向かっての情報発信はどうだろうか。テレビなどの既存のマスコミは、事件としてのニュースを流すことに専念し、罹災者たちの生活情報を流すことにはさほど積極的でなく、たまに流しても、一方通行のその場限りで、住民の間に不正確な情報が流れ、色んな場面で混乱を招くことにもなった。こうした非常時に行政からの情報を正確に伝えるという点でインターネットは大きな役割を果たせるのではないだろうか。震災直後であっても避難所などで携帯電話などをパソコンにつなげば、正確な情報を得る手段として利用可能である。また、避難所から行政に電子メールなどを使って情報を伝えることもできる。
 こうした情報提供としての機能は、非常時だけでなく、年金や健保、福祉、税金など行政上の様々な手続きの解説や情報を提供する上も有効なものであろう。もちろんこのような手段は、あくまでも補助的なものであり、窓口などでの職員の住民への親切で適切なマンツーマンの対応が重要であるのは言うまでもない。と同時に、インターネットは、住民から情報や意見を聞く手段としても有効である。電子メールは、従来の電話よりも、住民の精神的負担が小さく(一市民が役所に電話をかけ意見を言うのはかなり勇気が要る)、また郵便よりも簡単である。もちろんこうして出された情報や意見をどう行政として生かしていくかシステムを作ることが必要であり、聞きっぱなしの目安箱では役に立たない。
 また、インターネットは情報公開の手段としても有効だと考えられる。統計資料作成や財務会計システムへのコンピューター導入などが全国的に進み、決裁文書などをパソコンで作成し、庁内ネットワークでやり取りをする自治体も出現している。こうした電子化された情報は、少しの加工で、インターネットでの情報公開が可能になる。また例規集や議会の議事録などのように、印刷されたものはスキャナーなどの光学読取装置などを使えば、電子情報にすることは容易である。
 インターネットで情報公開を行えば、現在の情報公開システムのように、いちいち行政窓口に申請をし、許可を待ち、あらためて閲覧やコピーのために役所に出向くような面倒なことは必要ない。365日・24時間、自分の都合のいいときに、自宅のパソコンで必要な情報を見ることができる。検索システムさえ機能的に作れば、少々あいまいな事項であっても、該当する情報を引き出すことも可能だ。さらに内容に不十分な点や疑問点があれば、電子メールで、行政に回答を求めることができる。著作権の問題はあるが、フロッピーディスクへのコピーやプリンターによる印刷も可能であり、地域住民が発行する市民新聞などへの掲載も簡単にできるようになる。もちろん、前提として情報公開条例の制定が必要であり、条例で行政情報のホームページへの掲載を義務づけることができれば、画期的な情報公開制度の実現となる。

情報交換としてのインターネット

 以上のように、インターネットは情報を得る上で有効な手段であることがわかる。と同時に、住民間の情報や意見交換の手段としても有効である。
 電話は、情報交換に有効な手段であるが、かけた相手が不在であれば、用を足さない。また、電話は1対1であり、一度に多数にかけることはできない。FAXを使っても一度に伝えられる件数は知れている。その点、電子メールは、1対1だけでなく、メーリングリストという機能を使えば、複数の相手に同時に同一の情報を伝える1対多の伝達が可能である。また、受け取った電子メールをそのまま、またはコメントを加えて、別の人に送ることも簡単にできる。さらに、電子メールはプロバイダーのホストコンピュータに一旦蓄積されるので、夜中に送っても相手の迷惑にはならない。受け取った相手は、自分の都合の良い時間に電子メールを開封すれば良いのである。開封の場所は、インターネットにパソコンをつなぐことができれば、世界中どこでも可能であり、その場で返事を出すこともできる。
 こうした機能を使えば、どういうことが可能か。例えば、ある課題について、住民どうしで議論をするとする。今なら日程と場所を決めて集まることが必要であり、こうした段取りをすること自体、しばしばたいへんな労力を必要とする。しかし、電子メールを使えば、いつでも自分の意見を相手に送ることができ、メーリングリストを使えば全員に同時に送ることもできる。送られた者がその時間にいなくても、どこか出先にいたとしても、自分の都合のいいときに開封し、返事を送ることができる(相手だけに、または全員に)。もちろん、みんなが集り、顔を会わせて議論することはたいへん重要であるが、それまでに電子メールによる議論を行って、一定の到達点に達していれば、議論の中身はより豊かなものとなる。また、電子メールを会合の日程と場所を決めることだけに使っても、今の電話連絡よりは容易かつ正確である。
 以上の電子メールを使った方法では、議論に参加できるのは特定の者に制限されるが、ホームページを使えば、参加者は不特定多数となる。議論すべき課題でのホームページを開設し、情報や意見を募り、電子メールの宛先を掲示する。ホームページには誰もが自由にアクセスできるので、誰であっても電子メールでホームページ開設者に情報や意見を伝えることが可能になる。沖縄の米軍基地問題での県民のホームページや、その本土移転に反対する地元住民が開設したホームページなどは、活用例であり、今後、こうした利用が急速に増えるのではないだろうか。
 地方分権を本格的な住民自治の実現として、住民自らが行政の方向を決めていく上で、行政や地域の情報(課題・問題点など)を正しく知り、住民と住民が、住民と行政が議論し、方向を決めていくことが必要である。インターネットは、双方向性と平等性の性格において、こうした道を切り開く上での重要な役割を果たす可能性がある。

情報格差を生まないために

 前述のように、インターネットの利用者が急増しているが、国民各層に均一に普及しているのかというと、はなはだ疑問である。(株)インプレスが1995年12月に行った誌上アンケート(8)によると、利用者像は30歳代の男性で理系の仕事に就いているコンピューター歴の比較的長い者ということになり、インターネットの利用がまだ始まったばかりであり、一般化していないことを物語っている。こうした偏重の背景となっている機器が高価、操作が困難などの点は、パソコンなどの低価格化と高機能化、ソフトウェアの進歩などによる操作性の向上などで、将来に向かって改善されることは、ここ数年のパソコンを巡る状況の急激な変化から容易に想像される。また、産業界がインターネットの普及を新たな巨大市場の創設として捉えている以上、普及困難性の克服は彼らにとって至上命題である。
 しかし、このような改善が進んだとしても、現在のテレビや電話のように、ほとんどすべての世帯にインターネットが接続されるにはまだ相当の時間がかかるであろう。インターネットへの接続だけを目的とした低価格の専用機器が、最近次々と発表されているが、それでも5万円近くし低所得者にとって、けっして安いものではない。さらに機器が安くなっても、インターネットにつなぐにはプロバイダーとの接続料金と、プロバイダーの接続ポイントまでのNTTへの電話料金が必要であり、毎日1時間程度の接続でも一万円以上の経費を覚悟しなければならない。
 全ての世帯にインターネットが普及しないもとで、行政が本格的な利用を始めれば、持つものと持たざるものに、情報格差が生まれることとなる。行政がどれだけ住民が必要な情報を提供・公開しても、住民が情報をどんなに相互発信したとしても、利用できる者と利用できない者があれば、その価値は半減する。こうした情報格差、すなわち情報弱者を作らないため自治体として、基盤整備をどう図るかを政策化していく必要があるのではないか。また、住民としても行政に政策化を要求していくことが必要ではないだろうか。

インターネットをどう捉えるか

 では、自治体として、地域住民として、インターネットにどう具体的に対応すればよいのか。結論から言えば、インターネットが急速に発展し、拡大し、変貌を遂げている現時点で、回答の出せる問題ではない。しかし、インターネットを、地方自治・住民自治の発展に向けた、情報公開・情報交換のための真の有効な手段として発展させていくために、どうすればよいか、今から大いに議論していくことが必要ではないだろうか。
 日本では、産業界の意向に沿って、「インターネットとは何か」の論議を抜きにして、既存マスコミに代わる広告媒体や情報提供媒体として、また電子マネーなどを使った商取引の場として、インターネットのビジネス利用の面が強調されすぎているようにおもえる。インターネットによる情報化が、民主主義の歴史の上で大きな意味を持つ可能性があるものに成長してきたのは、そのことを意識した人々が基本的にボランティアとして活動し育ててきたからである(9)。こうした点を捉えることなく、ビジネス利用だけでインターネットを評価し、対応していくならば、日本で民主主義を定着させ、発展させ得る上での画期的な手段を手に入れるチャンスを逃がすことになりはしないだろうか。


引用文献

1)、2)日本インターネット協会編「インターネット白書’96」インプレス、96年

3)、4)木村淳「新たな試みが生まれている自治体のインターネット広報」 NRI Cyber Search情報サービス(http://www2.nri.co.jp:8080/)、96.6.1

5)前掲「インターネット白書’96」

6)この間の事情については、村井純「インターネット」岩波新書95年、が詳しい。

7)インプレス社のInternet Magazineにリストアップされた数 94年12月号17社、96年1月号105社、96年565社

8)前掲「インターネット白書’96」。利用者のうち女性は4%。利用者の地域分布は東京と東京以外の関東地区で53%、次が近畿地区の17%と大都市中心。年齢では男性で20代が26%、30代が55%、女性は20代が64%、30代が27%。50歳以上は男性で2%未満、女性は0%と高齢者の利用はほとんどない。職種では47%が「研究・開発」「(コンピューター)技術者」で「営業・販売」「経営・総務」などは20%に過ず、理系偏重となっている。コンピューターの利用歴で見ると10年以上15年未満が28%とトップで、3年以上が8割に達する。

9)加藤邦興「インターネット社会と民主主義」、経済96年8月号、新日本出版

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